月は囁く

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 光が降りていた。一筋の淡い金色の月光は後宮に咲いている月下花(げっかばな)の花畑を照らす。  しゃらりと夜風が吹くと、ピンクの花々が気持ちよさそうに頭を揺らした。  そこにひとりの三つ編みをした、薄汚れた衣を着た痩せた少女が立っていた。背には大きな竹の(かご)。少女は満月の夜にしか咲かない月下花の花びらを、ひとつ摘んで篭に入れる。花はこの国では后になれる花と信じられ、お茶として毎日飲むのが習わしであった。 ──嬉しい。  (れん) 紅葉(もみじ)は天を仰ぎ嬉しさから微笑んだ。  今夜は満月。満月の夜は月人(つきびと)である朔夜(さくや)と話すことが出来る日だ。 「だいぶ下界は寒くなってきましたけど、月はどうですか?」 「夏も終わるから、こっちも冷えてきた。紅葉は今日もひとりで花茶(はなちゃ)摘みかい」  苦笑いして紅葉は誤魔化した。いつものことだが、腹違いの妹の嫌がらせで、今日も茶摘みをひとりでやらされていた。 「まったく紅葉も同じ後宮の妃なんだ。言い成りになる必要なんてないだろう」 「そうなんだけど……身分低いし」 「妹もだろう。それに低いと言っても中級だろ。そんな扱いされるような立場じゃない。それに妹の仕事も全部、紅葉がひとりで引き受けているだろう」
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