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一気に玄関まで行き、靴を手に持って部屋のドアを開けた。
転がるように部屋から出た。
ギイイイイイィッ!
ドアを閉める直前、鳴き声なのか何なのか、凄まじい咆哮が聞こえた。
「何なの、何なのあれっ……!」
Tさんは階段を駆け下りながら、弟の叫び声を聞いたような気がしていた。
話には続きがある。その日はどう対処すべきか悩みながら誰にも相談できずに過ごしたTさんだったが、翌日に弟から連絡があったのだ。
Tさんが逃げ出したあの日、弟は密かに付き合っていたらしい女性の家で過ごしていた。
そして次の日に自分のアパートに戻ったら、窓ガラスこそ割られていたもののあのセミのような虫はいなくなっていた。
「いや、姉ちゃんに頼もうと思ったのは、あいつを捕まえたらどこかに高く売れるんじゃないかと思って手助けをね」
「彼女さんに頼めばいいでしょ」
あっけらかんとした弟の物言いに少し腹が立ってきたTさんである。
「彼女にそんな危ないことはさせられないんだ。だから捕まえるのは諦めて、うるさいから部屋を出てた」
「……まあいいわ、あの虫みたいなのはどうしたんだろうね」
「夏も終わるから、寿命が来てどこかへ行ったんだろ。セミの寿命は10日から2週間ほどだから、そろそろ弱ってくる頃かと思って姉ちゃんを呼んだんだ」
「弱り切ってから呼んでほしかったよ」
弟は弟でどこか変わっているところがあるなと思うTさんだったが、とにかく無事を喜んだという話だ。
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