あのフェンスの向こうへ

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「ママー、おじいちゃんがスイカの種飛ばして遊んでいるよー」 久しぶりに帰省した娘が連れてきた可愛い孫は都会育ちだ。 スイカの種を飛ばすなんてことはしないのだろう。 俺の行儀が悪いと告げ口をしている。 だが、今年だけは勘弁してほしい。 俺は来年から介護施設で過ごすことが決まっている。 先日、連れ添った妻が先立ち、俺自身も体調が優れない日が多くなった。 長年住み慣れた我が家で過ごす夏は今年が最後だ。 施設に行ってしまえば、スイカの種を飛ばすことはもうないだろう。 日が傾き始め、肌を撫でるそよ風が心地よい。 不意に、(ひぐらし)の鳴き声が聞こえてきた。 今年の夏も終わる。 了
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