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一週間ぶりの深山を見て、僕は愕然とした。なんとプールサイドに直接腰掛けているのだ。リクライニングチェアはおろか、つば広のUVカット帽子もパラソルも見当たらない。日差しの下の不服そうな表情に、僕は出会った頃の深山を思い出した。
「一体どうしたんだ?」
「パパにいい加減やめなさいって言われてさあ。グラサンだけは死守したよ」
「やけに素直だな」
「もう謹慎はこりごりだからね」
光を反射する水面、さざなみの煌めき、バタ足で上がる水飛沫、クラスメイトたちの笑い声。どれもが美しく、そしてありふれている。
「キミは入ればよかったのに」
「茜が謹慎中は入ってたよ。気持ちがよかった」
「あっそう……ってなんで下の名前!?」
深山が目を見開き、時が止まったように僕を見つめる。
「こうしてプールサイドに並んで話せるのも最後だろ? だから今日は見学でいいんだ」
耳を赤くして戸惑う深山をよそに、僕は鞄から水筒を取り出した。
「飲むか?」
深山は素直にそれを受け取り、勢いよく傾け、そして吹き出した。
「ちょっとなにコレ! 水じゃないじゃん!」
「フルーツ牛乳さ。これくらいの校則違反は許されるだろ?」
夏に幕を引くように、秋の風が頬を撫でた。
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