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「深山はなぜ日焼け対策にこだわるんだ?」
いつも通りリクライニングチェアの隣を陣取り見上げると、深山は苛立った様子で足を組み替えた。
「それ、本当に興味あるの?」
鼻先で笑い、小さく息を吸い込む。
「どうせ先生に頼まれてボクに話しかけてるんでしょ。わかってるよ、クラスで浮いてる問題児だって。校長の息子だからって注意もされないしね。腫れ物扱いには慣れてる」
図星だった。プール開きの一週間前、先生は僕を呼び出し「あなたが頼りなの」と言った。託されたからには責務を果たす必要がある。有用性を証明できなければ、僕の価値は暴落してしまう。
言葉を失った僕をよそに、深山はサングラスを外し、手の甲で乱暴に目元を擦った。ガサゴソとリュックを漁りハンカチを取り出した拍子に棒状の何かが転がり落ちた。
「鉛筆……?」
「アイライナーだよバカ。メイクに使うんだ」
「化粧するのか?」
「なに、男がメイクしちゃいけない?」
深山は僕の手からそれを奪い返し、大切そうに両手で包んだ。
「別人になりたかったんだ。ほんの憂さ晴らしさ。成績しか見てくれないパパとママがうざったくてね」
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