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第三章
深山が我が家に遊びにきたのは、九月初旬の日曜日のことだった。
「おばあちゃんちから大量に送られてきてさあ、おすそ分け」
自転車の荷台にくくりつけた紐を解き、華奢な腕を震わせながら深山は段ボール箱を玄関に置いた。中を覗くと、玉ねぎや人参、じゃがいも、茄子、トマト、パプリカ、色とりどりの野菜が詰められている。
「気持ちは嬉しいが、こんなにもらっても腐らせてしまう」
「いつまでもしまっておくからだよ。パーっと使っちゃお! カレーでいい?」
僕が答えるより先に深山は靴を脱ぎ「お邪魔しまあす」と言いながらキッチンへと進んでいった。中指を立てた海外バンドのTシャツに穴あきだらけのジーンズ、うっすら化粧を施した深山を母が見たら、きっと卒倒してしまうだろう。
「誰もいないんだ?」
「ああ。母さんはパート中」
深山は少し伸びた髪をゴムでまとめ、自前のエプロンをかけた。僕がつけ合わせのサラダ作りに苦心しているかたわらで、凄まじい手際の良さで野菜をカットし、大鍋に放り込んでいく。
「慣れてるんだな」
「ふふん、見惚れちゃった?」
「ああ。給食のおばちゃんみたいだ」
「うーん、複雑だな……」
眉をひそめながら首をひねる深山がおかしくて、僕は久々に声を上げて笑った。
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