第三章

1/4
前へ
/16ページ
次へ

第三章

 深山が我が家に遊びにきたのは、九月初旬の日曜日のことだった。 「おばあちゃんちから大量に送られてきてさあ、おすそ分け」  自転車の荷台にくくりつけた紐を解き、華奢な腕を震わせながら深山は段ボール箱を玄関に置いた。中を覗くと、玉ねぎや人参、じゃがいも、茄子、トマト、パプリカ、色とりどりの野菜が詰められている。 「気持ちは嬉しいが、こんなにもらっても腐らせてしまう」 「いつまでもしまっておくからだよ。パーっと使っちゃお! カレーでいい?」  僕が答えるより先に深山は靴を脱ぎ「お邪魔しまあす」と言いながらキッチンへと進んでいった。中指を立てた海外バンドのTシャツに穴あきだらけのジーンズ、うっすら化粧を施した深山を母が見たら、きっと卒倒してしまうだろう。 「誰もいないんだ?」 「ああ。母さんはパート中」  深山は少し伸びた髪をゴムでまとめ、自前のエプロンをかけた。僕がつけ合わせのサラダ作りに苦心しているかたわらで、凄まじい手際の良さで野菜をカットし、大鍋に放り込んでいく。 「慣れてるんだな」 「ふふん、見惚れちゃった?」 「ああ。給食のおばちゃんみたいだ」 「うーん、複雑だな……」  眉をひそめながら首をひねる深山がおかしくて、僕は久々に声を上げて笑った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加