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カレーを煮込んでいる間に炊き上がったご飯を仏器によそっていると、深山がそっと近寄ってきた。線香をあげたいのだという。僕は彼を和室へと案内した。
「この人……」
仏壇に飾られた遺影を見るやいなや、深山が驚きを隠せない表情で僕を振り返る。
「そっくりだろ? 兄さんなんだ。十年前の夏、川で溺れて死んだ」
「ごめん、知らなくて」
「謝ることじゃない」
僕はろうそくに火を灯し、線香をかざした。深山が姿勢を正し、深々と一礼する。初めてできた友人を兄に会わせることができてうれしかった。けれどそれ以上に申し訳なさを感じてもいた。十四で亡くなった兄を追い越そうとしていること。僕だけが高校生になること。のうのうと生きていること。これからも生きていくこと。
冷や汗が背中を伝う。遺影の兄が恐ろしい形相で僕を睨みつけている気がして、いつまでも目を開けられなかった。
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