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家族アルバムを見たいという深山の要望により、カレーを食べ終えた僕たちは納屋に向かった。滅多に立ち入らないそこは湿気に満ちていてカビ臭い。「虫だけは勘弁してよ」と文句を垂れながらも、深山は機敏に動いた。きっと幼い頃の僕を見てからかいたい一心なのだろう。
「あは、チビ壱だ! 眉間に皺が寄ってない!」
アルバムを見つけ出した深山は、案の定愉快そうに幼い僕を指差した。カメラを向ける父に対し、不安げに母のエプロンの裾を掴んでいる写真だ。深山はリビングのソファに腰掛け、飽きる様子もなくペラペラとページを捲った。
「あれ、急におっきくなった。メガネない方が可愛かったのに」
「いや、そっちは兄さんだ」
「でもここに“壱くん”って」
「同じ名前なんだ。僕が五歳になる前に兄さんが死んで、僕は改名することになった。兄さんの代わりに生きるために」
深山が目を見開き、時が止まったように僕を見つめる。光を受けながら漂う埃はあの日の水飛沫を想起させた。凶悪なほど美しく、果てしなく遠い。深山が勢いよく立ち上がり、座ったままの僕の肩を思いきり掴んだ。
「どうして落ち着いていられるの? わかってる? キミの親は、キミにひどい仕打ちをした」
身を震わせながら、一つ一つ慎重に言葉を選ぶように深山は言った。
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