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過去と寝室
「僕と清太は親友で、苦楽を共にした仲です。結婚式には友人代表として来てくれたし、希とも学生時代から打ち解けていた。そんな清太が僕を憎んでいて、希と叶を拐ったなんて有り得ない。白波を復活させたのだって別人の仕業で、そいつに清太は操られてるんです!」
話を聞きながら、香住さんはおもむろにスマホを取り出し、僕に画面を向けた。
ウイッターというSNSの投稿・・・写真には島が写っている。
コメントには「幻の島を見つけたかも」と書かれており、投稿者は・・・セータ。
セータって、清太なのか?
「裏はとってある。このSNSは釈 清太のアカウントで間違いない。彼はオカルト好きだね?」
清太はお化け、UFO、UMAが大好きだった。
部活をしながら、よくオカルト研究会の部室に出入りしていた。
僕は今、スマホを持っていないので香住さんに直接ウイッターを見せて欲しいと頼んだ。
「残念だが、もうインターネットが繋がっていない。陸からかなり離れたからね。ちなみに、さっき見せたのは私が予め撮っておいたスクリーンショットだ」
「仮に島を発見して白波を復活させたのが清太だったとしても、僕に何の恨みがあるって言うんですか?僕らは・・・」
「親友、というワードは聞き飽きたよ。放火の疑いで事件を調査したが、彼は都内の大手配信者プロダクションにマネージャーとして勤めている。こんな片田舎の町には何年も帰ってきていない。彼の同僚、家族、友人に隈無く話を聞いたところ、理由はいまだに忘れられない人と忘れたい過去があるからだそうだ」
「勿体振らないで下さい」
「そう怖い顔をしないでおくれ、赤井君。私は忠告をしたいだけなのだから。彼の忘れたい人は初恋の相手・・・希さん、君の奥さんだ。忘れたい過去は、友情を優先して思いを伝えられなかった事だ」
香住さんの言葉に、僕は思わず吹き出した。
「そんな話、信じられない。清太は恋愛相談だって親身になって聞いてくれたんですよ」
「信じるか信じないかは、君次第だが・・・ここからが私の忠告だ。目撃者の証言から、清太は鬼にはなっていない。鬼になった人は君も見ただろう?明らかに正気じゃない。あんな状態で人を拐うのは不可能だ。清太は希さんと叶ちゃんを島に連れ去った後、再び町に戻ってきた。丸焦げにした君が死んだか確認する為に。しかし、君は生きていた。清太の目的が君から希さんと叶ちゃんを奪って自分のモノにする事なのか、白波の力を取り戻す為の生け贄にする事なのかは定かでは無いが・・・島で清太と対峙したら、決して隙を見せない事だ。でなければ、君は・・・死ぬ」
香住さんは、そう語った後にデッキから船内へと戻って行った。
知った風な口で言いたい放題言って・・・しかし、重みはあった。
僕の身を案じてくれているのが伝わる、重みが。
黒江さんが申し訳なさそうな顔で僕を見つめる。
「香住が言っていた事、全てが真実とは言いきれませんが・・・あの子なりに、修さんの事を思って調べたのだと思います。失礼があったかも知れませんが、どうか穏便に」
「・・・はい。別に口論するつもりはありません。でも、少し疲れました。どこか休める場所はあるんでしょうか?」
「それなら、寝室に案内します」
僕は黒江さんに案内され、寝室へと入った。
流石にベッドしか無いか・・・セミダブルくらいの大きさはありそうだ。
これなら、ゆっくり休めそうだな・・・そう思いながらベッドに横たわる。
「寝心地はいかがです?」
「はい。なんか、高級な感じがします。高級ベッドで寝た事はありませんが」
「私も寝る時は霊体になってフワフワしているので、ベッドで寝るのは初めてです」
「そうなんですね。それ、想像できませんけど」
なんか、当たり前のように黒江さんがベッドに腰かけて話し掛けてくるんだが?
「もしかして、黒江さんの寝室に僕を案内しちゃった感じですか?」
「そうですよ」
あぁ~何百年も生きているけど、黒江さんは世間知らずなのか、おっちょこちょいなのか。
この場合、僕の寝室に案内してくれれば良いのにうっかり自分の寝室に案内しちゃったって事か。
僕はベッドから身体を起こし、部屋から出ようとした。
「修さん、おやすみになるのでは?」
「いやいや、僕は自分の寝室で休みますよ。すいません、知らなかったとは言え黒江さんのベッドに横たわってしまって」
「ですから、ここが私と修さんの寝室ですよ?」
「はい?」
思わず、すっとんきょうな声を出した僕を見て、黒江さんは悲しそうな顔をしている。
「もしかして、嫌でしたか?」
「いや、嫌じゃないですよ?でも・・・」
「なら、良かったです!」
うわぁ・・・満面の笑み。
そして、またもや食い気味。
神様って性別とか無いんだっけ?
女性の姿をしてるけど、そういうの関係無いのか?
本来なら、清太と希が学生時代にどんな感じで話をしていたかとか、過去の記憶を遡って香住さんが言っていたような事が事実かとか、色々と考えたいのに・・・こんな密室に二人きりじゃ、何にも考えられない!
てか、この状況を笑助さん達は黙認してるのか?
もしそうじゃないなら「おい、ブラザー・・・まさか、黒江様にナニしようとしてるのか?海の藻屑にしてやるから、カネに会ったらヨロシク言っといてくれ。アディオス」ってな事になるんじゃ!?
待て!そもそも、僕の第一目的は妻子の救出。
いくら可愛いくて優しくて胸がデカいからといって、不貞の輩じゃあるまいし変な気を起こすような真似はしない・・・と、それを踏まえた上の信頼からくる同室なのでは?
ハッ!?
部屋から出たと思ったら、いつのまにかベッドに戻っているだと!?
な、何が起きた?
※別に何も起きていない。修が無意識のうちに鼻の下を伸ばしてベッドに戻った・・・それだけである。
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