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後戯と夕陽
僕の脳裏に希と叶の顔が浮かんだ。
この刀と甲冑を身にまとえば、生存率も二人を救出できる可能性も格段に上がる。
清太と対峙した際にも、抑止力になるかも知れない。
いや、そんな事を考えるのは無粋か・・・僕は、もうずっと前から思っていた。
黒江さんを抱きたい、と。
僕は全裸になり、黒江さんを抱き締めた。
そして、口づけを交す。
黒江さんの舌は思っていた以上に長く、絡みつき、イヤらしい音をたてる。
見た目には蛇の神様っぽいところは無いのに、それはまさに蛇のようだった。
熱い吐息が漏れ、少し見つめ合い、また口づけを交わす。
僕が着ていたスウェットを床に敷き、少しでも黒江さんの身体が痛まないようにした。
不思議な感じがする。
抱いているのに、抱かれているような・・・黒江さんの指先、腕、足が身体に絡みつくような感覚。
挿入しているのは僕なのに、何かが僕の中に入ってきて這いずり回る。
身体中が熱い・・・初めてのはずなのに、この心地好くも息苦しい、響くような這いずる音は身に覚えがあるような気がした。
やがて、思考は有耶無耶になり夢か現かも分からなくなった。
ただ、夢中で僕は黒江さんと身体を重ねた。
何度も、何度も、何度も・・・
やがて、僕らは抱き合ったまま微睡みに沈む。
目を覚ました僕は上半身を起こし、まだ眠っている黒江さんを眺めながら罪悪感に胸を痛めた。
必要な事とは言え、浮気してしまった・・・希、叶、ごめん。
それに、笑助さん達も命懸けで結界を守る鬼と戦っていると言うのに・・・ごめん。
それにしても、妙に身体が熱いな。
具合が悪い訳では無いが、熱を帯びているのが分かる。
これが、神様と家族になった証なのだろうか?
黒江さんが着ていたワンピースを眠っている黒江さんの身体にかけ、僕は飾られている刀に手を伸ばす。
今は触れる事ができるようになっている。
黒い鞘から刀を抜くと、刀身も黒く妖しい光を放っていた。
身についた眼力の賜物なのか、この刀の切れ味が鋭い事が使ってもいないのに感じ取れる。
「刀、抜けましたね」
振り向くと、既に服を着た黒江さんが立っていた。
「目覚めていたんですね、黒江さん」
「とりあえず、服を着て下さい」
顔を赤くしながら、目を逸らす黒江さんを見てハッとした。
そういえば、全裸だった。
僕は刀を鞘に収め、慌てて服を着る。
何だか、僕を見る黒江さんの視線が冷たく感じるのは・・・気のせいか?
目を合わせようとすると、避けられた。
何か、怒ってる!?
「あ、あの・・・何か僕がやらかしましたか?」
「事後、女性の身体を労るのが紳士の勤めです。それなのに、目を覚ますや否や刀を抜けるか試すなんて・・・」
黒江さんを抱いたのは、あくまで刀と鎧の為だと思われてしまったようだ。
とにかく、全力で釈明しないと!
「すいません!そういう嗜みを心得ていませんでした!誠に申し訳ございません!」
土下座して謝った。
「反省してるなら、良いんですよ。顔をあげて下さい」
許してくれたのか、と思いながら顔を上げたが・・・明らかに不貞腐れている。
「すいません。本当に女性経験不足で・・・」
「私なんか、初めてですから」
マジか・・・なんか、目眩がしてきた。
「もしかして痛かったですか?」
「いえ?痛みは無かったですよ。とても・・・良かったです」
そこは人間と違って、それは同じなんだな。
「後学の為、具体的に何をすれば良かったか教えて下さいませんか?」
「それは・・・優しく肩を抱いたり、頭を撫でたりとか・・・って、何を言わせるんですか!?そういうところですよ、修さん!」
また怒らせてしまった!!
とりあえず、手遅れかも知れないと思いながら優しく抱き締めて頭を撫でてみた。
「・・・足りません」
そう言って、黒江さんは僕に顔を向けて目を閉じた。
口づけをせがんでる・・・可愛い。
結局、僕らはやり直しをしてしまった。
着た服を、また脱いで。
僕の胸の中に顔を埋め、黒江さんは言う。
「私の事は忘れても良いですが、私は忘れませんからね。蛇って、執念深いんですから」
「それって、僕の不出来なまぐわいをずっと恨み続けるって意味ですか?」
「そんなところです。一夜の契りを交わしてくれてありがとうございます」
そう言いながら微笑む黒江さんを見て、胸を痛めた。
張り裂けそうなくらいに。
僕は戻れるのだろうか、こんな思いをして日常に・・・帰れるだろうか、こんな思いを抱いて希と叶の元に。
「さて、そろそろ皆が戻っているかも知れません。クルーザーに戻りましょう」
もう少し、このまま抱き合っていたかったと思いながら僕は黒江さんに習い服を着た。
そして、甲冑を身にまとい刀を手に取り神社を後にした。
甲冑って、思ったより重くないんだな・・・なんだか、身体の一部みたいに馴染んでる気がする。
クルーザーに戻ったが、誰も居ない。
洞窟からは夕陽が見える・・・もう、夜が来るのか。
てか、そんなにしていたのか・・・我ながら呆れる。
「・・・今宵は満月ではありませんから、焦る必要は無いです。夜に行動するのは危険ですし、皆が戻って来るかも知れません。クルーザーで待機しましょう」
結界の破壊、手こずってるみたいだな。
でも、他の三人も笑助さんと同じくらい強いならきっと大丈夫だろう。
この時、僕は黒江さんとのまぐわいに浮かれて楽観的になっていた。
危機感を持ったのは、朝になっても誰一人として戻ってこないという現実を目の当たりにしてからだった。
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