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伏字と覚悟
門番の鬼を殺し、寺の敷地内へと踏み込む。
次々と襲いかかる鬼達を切り捨て、返り血を浴びながらひたすらに進む。
多少の反撃を受けたりもしたが、加護のおかげで傷はすぐに癒えた。
何となくだが、甲冑が加護の力を強めているように感じる。
更に進むと、槍を構えた鬼が立ち塞がった。
こいつは、他の鬼とは別格だ・・・見れば分かる。
槍から漂う気配も有象無象の鬼達が持っている武器とは違うな・・・気をつけなければ。
戦いを始め、すぐに理解した。
こいつは笑助より弱い。
数回、刃を交わしたところで動きを見切り首をはねる。
それからも次々と襲いかかってくる鬼達を斬り続け、先へと進む。
そんな中、鬼が両手を広げて僕の行く手を阻んだ。
武器は持っていないし、隙だらけだ。
胴体を真っ二つに斬り裂き、僕は白波が居るであろう寺へと向かう。
「かな・・せい・・・た・・・行かせない」
胴を斬った鬼は無抵抗だったさっきまでと打って変わり、凄まじい気迫で僕の足にしがみつく。
上半身だけでも動けるとは、他の鬼より生命力があるのか?
一瞬、その気迫には驚いたが僕は刀を鬼の頭に突き刺して息の根を止めた。
良く見ると、この鬼・・・泣いている。
鬼にも殺意や怒り、人を憎悪する以外の感情があるらしい。
今となっては、関係無い・・・もはや言葉は無用の長物。
寺の前に僕とは対照的な白い甲冑を身にまとった鬼の姿があった。
「修・・・なのか?」
「その声は清太か?そうか、お前も鬼にされたのか」
「何を言ってる・・・鬼はお前だ!■■■■に■をつけて沢山の■を■した!■■もお前のせいで■んだ!そして、お前は■まで■した・・・どうしてだよ、修!」
他の鬼達の言葉はほとんど聞き取れなかったが、清太の言葉は断片的に理解できた。
頭の中を香住さんの言葉が過る。
「清太と対峙したら、決して隙を見せない事だ。でなければ、君は・・・死ぬ」
きっと、香住さんも既にこの世には居ない。
だが、その言葉は僕の中に残っていた。
「言葉で惑わそうとしても無駄だ。最後に一つ、希と叶はどこだ?」
刀を構える僕を前に、清太は立ち尽くしたままでいる。
隙だらけだ・・・今なら、一気に間合いを詰めて斬り伏せる事もできるが希と叶が無事かどうかだけは聞いておきたい。
「修、お前は・・・見えていないのか?お前は!!」
何が見えていないと?むしろ、僕は加護の力で見えている。
似た武具を身にまとっても実力は僕の方が上だという事も見てすぐに分かった。
それは、リーチの差があっても僕に勝てなかった剣道と同じ。
そうだ、清太は僕に勝てなかった。
今更だが、僕に対して劣等感や嫉妬を抱いていてもなんらおかしくない。
更に希の事を密かに想っていたとしたら、尚更だろう。
そうか・・・それが真実なのか。
「見えたよ、修・・・決着をつけよう。僕とお前の友情に」
この距離でも、僕の脚力なら一気に間合いに入る事ができる。
せめて、楽に逝かせてやるからな・・・清太。
「お父さん!」
そう思った瞬間、背後から叶の声がした。
「叶、叶なのか?」
振り向くと微かな香りと共に、着物姿の叶が視界に入る。
「叶・・・無事だったのか」
抱き締めようと両手を広げると、叶は栗色の髪をなびかせ、うつ向いたまま僕の胸に飛び込む。
それと同時に脇腹に激しい痛みが走る。
恐る恐る見ると、脇腹に深々と小太刀が突き刺さっていた。
「死ねぇ!!」
憎悪に満ちた声で叶が叫ぶ。
これは、叶に化けた鬼なのか?
しまった・・・ここまで来て、こんな単純な罠に引っ掛かるなんて!
せめて、叶に化けた鬼だけでも!
叶に化けた鬼の首をはねようとしたが、いつの間にか近づいていた清太に刀を弾かれた。
「修、もうどうにもならないのか?」
「清太、卑怯な手を使わないと僕に勝てないのか?」
痛みはあるが、致命傷では無いようだ。
まだ、戦える・・・まだ、諦めない。
黒江さんに救って貰った命で、もはや相容れない清太と諸悪の根元である白波を討ち取り、希と本物の叶を救い出すんだ!
死ぬのは、それからで良い・・・黒江さん、力を貸して下さい。
僕は刀を強く握り締めた。
これが最後になっても構わない、覚悟は決めた。
救うんだ、愛する人から貰った力で愛する家族を!
一幕 修の章・・・閉幕
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