着信と再会

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着信と再会

「あの、笑助さん・・・僕、帰らないと!妻と娘が待ってるんです!」 僕が借りたのと同じスウェットに着替えた笑助さんは困ったような顔で僕を見る。 「あぁ~それな。実は、ブラザーの事を探偵に調べさせたんだが・・・もう、帰る場所も待ってる人もんだわ」 唐突な笑助さんの言葉に、僕は取り乱した。 「な、何を言ってるんですか・・・どういう意味ですか!?」 「落ち着け、ブラザー。ここから先は、かなり突拍子も無い話になる。何て言うか・・・ファンタジーな内容だ。カネ、ちょいと外してくれるか?」 「除け者にするんッスか?いや、そんな怖い顔しないで下さいよアニキ・・・分かりましたって、隣の部屋で大人しくゲームしてきますから」 「お利口さんだ、カネ」 「アニキに逆らう訳が無いじゃないッスか。じゃあ、ゆっくり話して下さい」 兼吉君はそう言って、部屋から姿を消した。 「・・・まず、ブラザーの住んでたアパートなんだが、家事で全焼してた」 「な、何ですって!?まさか、妻と娘は・・・」 「焼け跡からは奥さんと娘さんの遺体は見つかって無い。だが、安心しろとは言えん状況だ。恐らく、連れ去られた。コイツにな」 笑助さんは、そう言って僕に写真を見せた。 その写真に写っていたのは・・・高校までずっと一緒に剣道に打ち込んだ親友 (しゃく) 清太(せいた)だった。 「何で、笑助さんが清太の写真を?いや、それより清太が妻と娘を拐ったなんて・・・ありえませんよ!」 「コイツの事は覚えてるのか。調べてくれた探偵から、もっと話を聞きたかったんだが・・・さっき、巻き込まれて死んじまった」 申し訳なさそうな顔をしている笑助さんを僕は何が何だか分からないまま、見つめる事しかできずにいた。 すると、どこからか着信音が鳴り響く。 笑助さんはポケットから取り出したスマホの画面を神妙な面持ちで見た後、電話に出た。 「もしもし・・・いや、連絡が無かったんで自分なりに動いてました。はい、なら話しは早いですね」 僕や兼吉君と話をしている時とは違い、とても丁寧な口調だ・・・明らかに目上の人物なのが分かる。 通話を終えた笑助さんは真剣な表情で僕を見て言った。 「現状を一番把握している人物が、会いたいとさ。近くの公園に居るから、行ってきな」 「だ、誰ですか、その人物って!?」 「会えば分かる。ガキじゃあるましい、いつまでもビビってんなよ?ブラザー・・・腹をくくれ」 今までは、何処と無く僕に気を遣ってくれていた笑助さんとは裏腹に恐怖にも似た威圧感を覚えた。 「この部屋から出て、見渡せばすぐに分かる」 選択の余地は無いらしい。 全く状況が理解出来ないまま、僕は適当なサンダルを借りて部屋から出た。 部屋から出ると秋の夜風が少し肌寒く感じる。 階段を下りて笑助さんに言われた通り、公園に行くと・・・ベンチに若い娘が座っているのが見えた。 あれは・・・病院に居た黒髪の少女? 僕に気づいた少女は、ベンチから立ち上がり涙を浮かべて微笑んだ。 「良かった・・・無事で」 その表情と言葉から本当に僕の身を案じてくれている事が伝わった。 あの時は切迫した状況かつ混乱していたから、突然現れた彼女を不気味に感じたし、淡々と話す様に冷たい印象を受けた。 その印象を払拭するには、十分すぎる・・・そんな笑顔だった。 話したい事、聞きたい事が沢山あるにも関わらず・・・僕は少女の美しさに見とれ、呆けてしまった。 「あ、あの・・・ちゃんと?」 「え、ハイ。見えてます・・・えっと・・・すいません、見とれてしまいました」 「はい?」 僕は何を言ってるんだ!? 何とか取り繕おうと、慌てての礼を述べる。 「あの時は、ありがとうございます。きっと電話をしたから、笑助さんが助けに来てくれたんですよね?」 「私が直接、笑助に電話をする事が出来ない身体なので・・・色々、ありまして。と、とりあえず座りませんか?」 何だか、変な雰囲気にしてしまった・・・妻と娘が心配なのに目の前の美少女にうつつを抜かすなんて、情けない。 出来るだけ少女の顔を見ないように、僕はうつむきながらベンチに腰かけた。 すると、少女もベンチに腰をかけて話始める。 「まず、私が何者かを話ますね。信じて貰えないかも知れませんが・・・私は蛇神の化身で黒江(くろえ)と言います」 ん? 笑助さんがファンタジーって言っていたのは、こういう意味か? 多分、今までの僕なら信じない。 あぁ、この娘はVチューバーが言うような『お肉の国のお姫様』とか『天使と悪魔のぷるぷるえんじぇるでびる』とか、そういう設定を現実にも持ち込んじゃう痛い感じの娘なんだろうな、とか思って苦笑いを浮かべただろう。 だが、今は違う。 あまりにも非現実的な出来事が押し寄せてくる、信じがたい現実を僕は受け入れるしか無いのだから。 「蛇・・・なんですか?どちらかと言うと、ハムスターっぽいですよね。目もおっきくて可愛らしいし」 他に言うべき事があったハズなのに、僕は何故か思った事を素直に口にしてしまった。 僕の言葉を聞いた黒江さんは、顔を真っ赤に口を閉ざしている。 不味い、怒らせてしまった!? あの笑助さんが敬語で話すような相手に、なんて失礼な事を言ってしまったのだろう。 僕は自分が仕出かした事を後悔すると同時に全身から血の気が引いていくのを感じていた。
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