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黒江と白波
青ざめた顔をした僕に黒江さんは恥ずかしそうに言った。
「か、可愛らしいとか・・・急に言われたら、何て返したら良いか分からないです」
この感じ・・・良かった、照れてるだけで怒っては無いぞ!
何なら、満更でも無いような・・・いや、今はそんな場合では無い。
とにかく、一度気を引き締めて話をしよう。
「すいません、真面目な話の最中に腰を折って」
「本当ですよ・・・口説かれてるのかと思いました。えっと・・・私の身体は半霊体と言いまして、本当の肉体では無く肉体に近い霊体なんです。力を消費しすぎると不安定になり、物を持つ事すらできなくなってしまいます。あの時は紙や鉛筆程度なら何とか持てましたが、機械を扱うのは無理な状態でした。ですから、どうにかあなた自身に電話をかけてもらうしか手がありませんでした」
「でも、今・・・笑助さんに電話してませんでした?」
「今は時間を経て、大丈夫な状態なので。でも、機械はそもそも苦手なので持ち歩いていませんでした。さっきの電話は、笑助とは別の私に使えている者から借りました」
なるほど、だから僕が自ら電話をしなければならなかったのか・・・使えている人と言うのも気になるが、今はそれより優先すべき事がある。
「黒江さんが知ってる事を全て僕に話して貰えますか?」
「私の存在を受け入れてくれたあなたでも、信じてくれるか不安ですが・・・お話しましょう。
私はかつて、くちなわ島と言う双子の蛇神を祭る島で人間達と平和に暮らしていました。
しかし、本土から島に渡って来た人間の侵略から島を守る為に戦わざるを得なくなってしまいました。
島の人間は私達の加護により、戦いに勝ち侵略者達を追い返しました。
ですが、私の双子の妹・・・白波は追い返すだけでは生ぬるいと本土に攻め込み皇族の妃と娘を生け贄に捧げるように要求しました。
そうする事により蛇神の力を強め、逆らう気力を奪って支配しようとしたのです。
皇族達は私にすがりました。
二度と島を荒らすような真似はしないから、どうか助けて欲しいと・・・私は白波に考えを改めるよう諭しました。
しかし、白波は応じる事は無く私にまで牙を向き、私は八人の戦士を引き連れ皇族とも協力して白波と戦う事にしました。
激しい戦いの中、妃と娘を拐った白波は生け贄の儀式を成功させ『蛇鬼』となり更なる力を手にし全てを支配しようとしましたが・・・私は八人の戦士の半分を失いながらも白波をくちなわ島もろとも封印する事に成功しました。
その代償として肉体を失い、この半霊体となり死ぬ事もできずに長い長い年月を過ごしていました。
ですが、何かのきっかけで島全体に施した封印が弱まり誰かが島を見つけ、事もあろうに白波の封印を解いてしまった。
封印から解放された白波は元の強大な力を取り戻す為に生け贄の儀式を執り行うべく、再び皇族の血筋を持つ妻子を拐ったのです」
話を聞いて、僕は奮えながら拳を握り締める。
「それが、僕の妻と娘・・・ですか!?」
黒江さんは頷き、話を続けた。
「白波復活の兆しを察した私は、蛇鬼の気配を辿りあなた方が住んでいたアパートにたどり着きましたが・・・時既に遅く、アパートは業火に包まれて、あなたは大火傷を負い、奥さんと娘さんは拐われてしまった後でした。
経緯は分かりませんが、あなたの親友である釈 清太は白波に操られ、邪魔なあなたを亡き者にするべくアパートに火を放ったのでしょう」
「清太が僕を殺そうとして、希と叶を拐った・・・しかし、それが白波という悪い蛇鬼の仕業で操られているなら、清太も何としても助けなければ!」
僕の言葉を聞いた黒江さんは、驚いていた。
「奥さんと娘さんは当然として、操られているとしても自分を殺そうとした友人も助けたいと?」
「はい。清太は、そんな酷い事をするやつじゃないんです」
「・・・病院であなたを殺そうとした鬼婆も、清太がけしかけたかも知れないのですよ?」
「だとしても、それは操られているからです!黒江さん、希と叶は無事でしょうか?清太を元に戻す事は可能でしょうか?」
黒江さんは僕を見て、また微笑んだ。
「優しすぎるくらい、優しい人ですね・・・修さんは。生け贄の儀式は満月の夜に執り行われますから、まだ猶予はあります。清太が操られているなら白波を討てば元に戻る・・・はずです」
「良かった・・・まだ、望みがあるんですね!」
束の間の安堵に胸を撫で下ろした瞬間、僕は重大な問題に気づいた。
僕の力、及ばなすぎじゃないか?
子供の頃なら、ゲームみたいな展開に胸を踊らせたかも知れない。
しかし、大人になった今だからハッキリ思う。
僕は無力だ。
「どうしたんですか?一喜一憂して」
心配そうな顔を向ける黒江さんに、僕は胸の内を明かす。
「黒江さん、色々と話を聞かせて貰いましたが・・・若い頃は剣道に通じてましたが、今は仕事もせずにパチンコしてるだけのただのオッサンです、僕は!こんな、化物から愛する人達を救うなんて勇者ムーヴできっこないです!」
「修さんはさっきも話しましたが、大火傷を負って死にかけていました」
なんで、今そんな話を?とは思ったが、言われてみれば不思議だ。
何で、こんなにピンピンしてて火傷一つ無い?
困惑する僕を他所に黒江さんは話を続けた。
「修さんがうなされながら奥さんと娘さんの名を呼ぶのを見て、同じように妻子を奪われたあの人と重なりました。あの時は、何もしてあげられず歯痒い思いをしました。ですから、今度こそ・・・力になりたいと思い、私の力を注ぎ身体を治癒したのです」
「そうだったんですか。ありが・・・」
「つまり、修さんの身体には私の力が宿っています」
食い気味に話をされ、戸惑いながらも僕は続きを黙って聞く事にした。
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