行合の空は薄明に踊る

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 木蓮のいなくなった学校はすこぶる退屈だ。  クロエは天体図館でアイスココアを飲んでいた。天体図館にくりぃむ曹達がなくなるとクロエは夏が終わったと思うことにしている。  カラカラと氷を回しながら壁掛の本棚に見覚えのあるものを見つけた。浅葱色の海玻璃が背表紙をちらつかせながら揺れている。 「君はここに居たかったんだね」  FMラヂオの小声にかき消された言葉はクロエの心中にしばらく響いた。クロエは海玻璃の栞が挟まった本を手に取った。木蓮がどんな本を読んでいたのか気になった。それは詩だった。栞が挟まった頁の終わりには、このようなことが書かれていた。 「しかしネロ  もうじき又夏がやってくる  新しい無限に広い夏がやってくる  そして  僕はやっぱり歩いてゆくだろう  新しい夏をむかえ 秋をむかえ 冬をむかえ  春をむかえ 更に新しい夏を期待して  すべての新しいことを知るために  そして  すべての僕の質問に自ら答えるために」  クロエはその頁に栞を挟んだまま、元の場所に戻した。窓が薄明に染まり、クロエは勘定を済ませようと席を立った。
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