八月 日

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 八月三十二日 リビングに掛けられている日めくりカレンダー。最後の一枚には確かに『三十二日』と書いてある。 スマホもテレビも『八月三十二日』。周囲の人も画面に映る人も誰も疑うそぶりを見せない。 「……おはよ~」 落ち着かない気持ちで家族に起床の挨拶を送る。 「やっと起きた、学校始まってたら遅刻よ」 家族はいつも通り。母さんは朝食の用意、僕に小言を言う余裕があるのもいつも通り。 父さんは会社に出勤するためポロシャツに着替えている。食パンと珈琲のセットを優雅に食べながらニュースを眺めている。 姉さんは大学の夏休みが九月まであるらしく今日もまだ寝ている。どうせ起きてすぐバイトに行くのだろう。 でも僕は別、本来は今日から新学期が始まる。憂鬱でつまらない授業が始まるはずだった。 勿論、友達にも会えるのは楽しみ。高校でできた友達とゲームの話題で盛り上がるつもりだった。 しかし八月はなぜか延長。母さんも父さんも口を揃えて「明日から学校だぞ」「宿題は終わったのか」「今日は早く寝ろ」だの昨日も聞いた小言を言い放つ。 意味が分からない、僕だけが気づいている。 でも宿題をやる余裕ができたということでもある、なら今日一日を使ってのんびり宿題を終わらせよう。涼しい部屋で、たまに休憩で動画でも見ながら。 「あ、でも」 もう少し、夏が続いてもいいな。
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