第19話 ユイナとゲームの強制力

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第19話 ユイナとゲームの強制力

 無駄に大きなベッドの上で、わたしと未希と健太で輪になって座った。  真ん中には飲み物とお菓子の乗ったトレー。今夜はパジャマパーティーだから、普段着の健太にはナイトキャップをかぶせておいた。 (こういうのは雰囲気大事だし)  そんなおかしなことにこだわるくらい、わたしは動揺してたんだと思う。 「ケンタって、ほんとに弟の健太なの?」  いや、今も弟なんだけどさ。やっぱわたしかなり動揺してる。 「うん、姉ちゃん。俺、中身は森健太」 「うわっ、そのしゃべり方! やっぱ本物の健太だっ」  感動のあまり抱きついた。  健太も照れくさそうに背中をポンポンしてくれる。 「やっぱりね、そうじゃないかってちょっと前から思ってたんだ。飲み物こぼれる。いいから華子は今すぐ落ちつけ」  未希ちゃん冷たいっ。  感動の再会じゃん。って顔は毎日合わせてたけど。 「でも未希はどうして健太に記憶があるって分かったの?」 「さっきも言ったけど、健太はあのゲーム……『トキメキずっきゅん♡ピュアLOVEドキドキ☆マジカル学園』のプレイ経験あったからね」  健太ってば乙女ゲームなんかやってたんか。  ってか、タイトルダサっ。 「で、健太はいつから目覚めてたわけ?」 「わりと物心ついたころから」 「そんな初めからなんだ……」 「でも姉ちゃんはさ、顔はそっくりでも中身はまんまゲームの悪役令嬢だったし。今までは断罪されないよう、ハラハラ見守ってた感じ」 「健太……」  姉思いの弟で姉ちゃんうれしいよ。 「あーソレ、分かる。いくらゲームのキャラって言っても、身内と同じ顔が飛んじゃうのはね~」 「だろ? なんか毎晩夢に見そうだし、さすがにソレはきっついよな~」  って、自分の精神衛生のためかいっ。 「けどさ、ここんトコ急にハナコ姉上の言動がおかしくなってきてさ」 「あ、通学中に馬車降りた件とか?」 「そう、ハナコ姉上が人助けなんてまずあり得ないし。そこに来て未希()ぇそっくりの令嬢が頻繁に家に出入りするようになっただろ? これはもしかしたら……って」 「そんでうちらの動向を見張ってたってわけか」 「未希姉ぇ、正解」  おお、未希も健太も洞察力すごいな。 「にしても姉ちゃん、どうやって記憶戻ったの?」 「階段でユイナ・ハセガー助けようとしてさ。そんときに頭打ったかなんかしたみたい」  とりあえずこれまであったことを、かいつまんで説明した。 「そっか。ユイナのヤツ、そんなことを……」  呟いたケンタに、わたしと未希は目を見合わせた。  ケンタは攻略対象のひとりだ。  やっぱりユイナのこと、好きになったりしちゃってるんだろうか。  うう、姉ちゃんとしては聞きづらい。好きって言われても、相手があのユイナだと思うとものすごく複雑だ。  そんなこと考えてたら先に未希が口を開いた。 「ね、健太。ヒロインのユイナって攻略対象的にはどんな存在?」 「どんな、か。正直、別にって感じなんだけど」  別に!  そっか、そっか、姉ちゃんひと安心だよ。 「たださ……」  ただ? なにその意味深な感じ。 「時々、自分が自分じゃないみたいになるときがあって。知らないうちに、何か言ったりやったりしてることがあるんだ」 「もしかしてそれって……」 「ゲームの強制力ってやつ?」 「俺もそうだと思ってる。多分ゲームのイベントに組み込まれて、強制的に動かされてるんじゃないかな」 「やっぱあったか、強制力」  マジですか。  そうなるとわたしのギロチンエンドも、回避するのが難しいってこと? 「そのときだけはユイナのことがすごく愛おしく感じるんだ。普段はなんとも思ってないのにさ」 「あー、それで生徒会室ではみんなユイナに塩対応なんだ」 「うん、マサト先輩たちも俺と同じような感覚なんじゃないかな? 特別そういう話をしたわけじゃないんだけど」  ギロチン台が一歩また一歩と近づいてきてるっ。  無言になったわたしに気づいたのか、健太が頭ポンポンしてくれた。  うう、姉ちゃん涙出そう。 「でも最近、コツをつかんできたんだ」 「コツ?」 「うん、俺ルートのイベント、ここんとこほとんど起きてないと思う。強制参加させられるのは、ヒロインがルート決めするイベントだけって感じ」 「ルート決め? どの攻略対象のルートに入るか、ヒロインが決める選択イベントってこと?」 「そう、そんな感じ」  そっか。ユイナの選択次第でデッドエンドは避けられるのか。  わたしがスペシャルヤバい目に合うのは、王子ルートのギロチンエンドと、ケンタルートの串刺しエンドだけらしい。  それ以外を選択してくれれば、ひとまず命は助かりそう。ほかのルートも国外追放とかはあるんだけどね。 「ま、俺ルートはまずないと思っててくれていいし」 「わたしの見立てなんだけど……今んとこユイナ、王子ルート選択してない?」 「未希姉ぇもそう思う?」  ふぉっ、やっぱギロチンエンドなのっ!? 「俺の記憶だと、次あたりユイナのお茶会イベントが起こるはずなんだ」 「お茶会イベント……? ああ、学園の裏庭でヒロインが攻略対象たちと開くやつね」 「確かそれが、最終的なルート決めイベントだったと思う」 「お茶を入れるシーンで選択肢が出るんだっけ。どの攻略対象のカップに注ぎますか? って」 「で、いちばん最初に選んだ対象のルートが本格的に始まる、と」  まさに運命の分かれ道?  生殺与奪の権をユイナに握られてるのが、本当に歯がゆいんだけどっ。 「じゃあそのイベントの結果見て、今後の対策を立てるしかないね」 「うん、だから今アレコレ心配してもしょうがない。てなわけで姉ちゃん、とりあえず今夜は昔話で盛り上がろう?」 「健太……」  うう、なんて姉思いのやさしい弟なんだ。  姉ちゃんうれしくて号泣寸前だよ。 「辛気(しんき)臭い顔続けられると、明日から飯マズくなるし」  ってそっちかいっ。  それから思い出話をいっぱいした。  三人ともちっちゃいころからずっと一緒にいたから、話題はなかなか尽きなくて。 「あ、姉ちゃん寝ちゃってら」  ううん、まだ起きてるよ。まぶたが重くて開かないだけ。  ダンジュウロウに借りた本がさ、けっこうおもしろくって。明け方近くまで読んじゃったのがマズかったな。今夜はもう眠くてしかたないや。 「ほんと、華子のためにこうして集まってやってるってのに」  うん、未希、いつもありがとうね。  文句ばっかり言われるけど、心配してくれてるのちゃんと分かってる。 「平和そうな寝顔。あほ(づら)とも言うけど」  あんだとぉ?  ああ、ダメだ。言い返したいのにもう寝落ちしそう。 「……なぁ、未希姉ぇ」 「何?」 「華子姉ちゃん、やっぱりあのとき死んだんだよな……?」 「うん……今、華子がここでこうしているってことは、多分そう言うことなんだと思う」 「そっか。やっぱそうだよな……」  なんかふたりしてわたしのこと話してるみたいだけど。  もう限界。  おやすみなさい、よい夢を――。
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