第20話 お茶会へようこそ

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第20話 お茶会へようこそ

 ユイナのお茶会イベントはすぐに起きた。  まさに健太が言ってた通りって感じ。  時は放課後、場所は学園の裏庭。  魔法でクロス広げたり、ポットやカップを並べたり。ユイナがひとりでテーブルをセッティングしてる。  おお、すごい。なんだかマジックショー見てる気分。やっぱ魔法が使えるってうらやましいな。  わたしと未希は生垣を隔てた別のテーブルでお茶してる。  陰になってて向こうからは見えない位置だし、ここは何気に穴場スポット。  のぞき見してても変に思われることもないんだ。  万が一ひとに見られても、ただのティータイムって押し切るつもり。  念のため令嬢口調は崩さないよう気をつけないと。 「あら? いちばん乗りは健太みたいね」  ぶつくさと文句を言いつつも、健太は率先して準備の手伝いしてる。  イヤイヤを装ってるけど、ユイナと一緒にいれてなんだかとってもうれしそう。 (ゲームの強制力が働いて、いま健太はケンタなんだろうな……)  ゲーム内でケンタってツンデレキャラらしくってさ。  健太の性格知ってる身としては、ちょっと笑っちゃうんだけど。 「お次はダンジュウロウ・ササーキ様のご登場ですわ」 「開始時間のきっちり五分前ね。なんてダンジュウロウ様らしいのかしら」  ダンジュウロウは律儀の皮をかぶった生まじめモンスターみたいな性格だ。  融通の利かない堅物で、ゲームの初期はヒロインにも厳しかったりして。  それがイベントごとに(ほだ)されていって、最終的にはクーデレになるって話。  今も配膳の位置とかチェックして、ユイナに細かくダメ出ししてる。 「見て、ジュリエッタ。まるで重箱のスミをつつく小舅(こじゅうと)のようよ」 「王子を招くんですもの。慎重になるのも致し方ないですわ」  なるほど。未希の言うこともゴモットモ。  あ、でもダンジュウロウ、ユイナを見る目がやさしいぞ?  ユイナはユイナで、てへ、失敗しちゃった、みたいなポーズ取ってるし。  その脇でケンタがちょっと面白くなさそうな顔してる。  ダンジュウロウの方が先輩だから、口を挟めないのが悔しそう。 「シュン王子とマサト・コーガ様もいらしたようね」  マサトのやつ、来るなりつまみ食いしてユイナに怒られてやんの。  こうして見てるとムードメーカーっぽいし、食いしん坊なワンコキャラの王道を行ってるな。  みんなユイナ囲んで和気あいあいとしてる。生徒会室で見た塩対応とは大違いだ。 (ゲームの強制力って怖いな……)  何とも思ってない相手でも、勝手に好きって思わされちゃうんだから。 「ハナコ様、役者は全員そろったようですわ」 「ええ、ここからが本番ね」  ユイナ以外のメンバーが円卓を囲んで席に着いた。それぞれの目の前には、空のティーカップが置かれている。  このお茶会イベントは、どの攻略対象のルートに進むかを決めるための選択イベントだ。  ゲームではここを分岐点にして、選んだ対象との恋が本格的に始まっていくらしい。  要するにいちばん最初に紅茶を注がれた人物が、ユイナの狙ってる攻略対象ってわけ。  山田が選ばれないことを祈りつつ、植木の合間からじっと様子を伺った。  魔力で水を出したユイナが、魔法ポットに注いでる。あのポットは魔力を流すと湯が沸く便利アイテム。  と言ってもわたしの魔力じゃウンともスンとも言わないんだけどね。  べ、別にうらやましくなんてないんだからっ。  だってわたくしは高貴な公爵令嬢。  まわりがみんなやってくれるんだもの。  お湯が沸くまでの間、みんなたのしそうにユイナをチヤホヤおしゃべり中。  やっぱココ、ゲームの世界なんだなって痛感してる。  あんなユイナでも正統派ヒロインにしか見えないし。  てか、まぶしっ。  いま何かがキラッと光ったんですけど。  って思ったら、山田の瓶底眼鏡がこっち向いてない?  うそ、わたしも未希も向こうからは見えてないはずだよね?  のぞき見体勢から、思わずテーブルに突っ伏した。  GPSつきの制服のリボンは迎えの馬車に置いてきてある。  だからここにいることが山田にバレるわけはないんだけど。 「ハナコ様? どうかなさいまして?」 「び、瓶底眼鏡が……」 「大丈夫そうですわよ? 今はイベント中ですし」  そっか、強制力が働いてるんだもんね。  ほっとしてのぞき見再開。  山田のヤツめ、紛らわしいことすんなって感じ。  円卓ではユイナを取り合って、野郎どもが表面穏やかにバトルしてる。  見てよ、あのユイナの得意げな顔。本気で逆ハーレム狙ってそう。 (ん? 山田だけ戦いに参戦してないような……?)  やたらと落ち着いて黙ってみんなを眺めてるし。  メインヒーローの貫禄ってやつかな。知らんけど。  お湯が沸いたのか、ユイナがティーポットに注いでいく。  するといきなり空中に砂時計が現れた。  砂はサラサラ落ち始めて、今度は紅茶の蒸らしタイムらしい。 「まぁ、選択の砂時計が生で見られるなんて」 「選択の砂時計?」 「ええ、別名・非道の砂時計。砂が落ちきる前に選択肢を選ばないと、ランダムに選択されて勝手にゲームが進行してしまうという初心者泣かせのくそルールですわ」  ジュリエッタ、ずいぶん言葉が乱れてんぞ。  ってか、確かにクソゲーの香りしかしないけど。  なんてことを会話してる間に、こぼれる砂はどんどん目減りして。  いよいよ運命の分かれ道だ。  息を詰めて、ティーポットに手をかけるユイナの動きを目で追った。 「でもジュリエッタ。常識的に考えて、いちばん身分の高い人間から提供するのが普通ではなくって?」 「言ってもゆるいゲームの世界ですから。それにシュン王子以外を選ぶと、ダンジュウロウ様から教育的指導が入りますし」  おお、小言を並べ立てるダンジュウロウが目に浮かぶようだ。  にしてもそのゆるい世界で、ギロチン処刑とか設定の振り幅大きすぎやしない? 「いよいよですわね」  声を潜ませた未希につられて、緊張が高まるのが分かった。  どうか山田だけは選ばれませんようにっ。
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