第21話 その宣戦布告、受けて立ちましょう

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第21話 その宣戦布告、受けて立ちましょう

 「最悪……」  わたしの祈りをあざ笑うかのように、ユイナは真っ先に山田のカップに紅茶を注いだ。  王子ルート確定だ。  それは確実にギロチンエンドに近づいたってことで。 「問題ありませんわ、ハナコ様」  泣きそうなわたしとは対照的に、未希が余裕の表情でニヤっと笑った。 「これで今後の対策が立てやすくなったと言うもの。どうぞこのジュリエッタにお任せください。王子ルートはいちばん頭に入っていますから」  そうだ、わたしはひとりじゃない。  未希と、それから健太っていう、心強い味方がふたりもいるんだ。 「そうね。ここで諦めるなんて、わたくしらしくないものね」 「それでこそハナコ様ですわ」  よし、俄然勇気が湧いてきた。  落ち込むのは性に合わないし、これから本気出してデッドエンドを切り抜けてやる!  景気づけに冷めかけの紅茶を飲みほした。  結果が出た今、ユイナたちをのぞき見する理由はもうないし。 「あとはティータイムをたのしみましょう? ジュリエッタ」 「はい、ハナコ様。今日はとことんお付き合いいたしますわ」  うなずいて、自分と未希の分、手ずからおかわりの紅茶を注いだ。いつもは誰かにやってもらう立場だけど、たまにはこんな日もあっていいんじゃない?  心機一転の旅立ちに、改めて乾杯といきますか。  意気揚々とカップの取っ手に指をかけ……ようとして。  その寸前、後ろから伸びてきた手にソーサーごと紅茶をさらわれた。  令嬢の所作も忘れてぽかんと大口を開けてしまった。  だって斜め後ろに山田が立ってるんだもの。  人間ってあんまりにも驚くと逆にリアクションが薄くなるんだね。未希ですら目を真ん丸にして何もできずに固まってるし。  山田、イベント中だったよね? なんでわたしんとこに来てるんだ? 「あの……シュン様?」  アナタが手にしてるその紅茶、わたしが飲んでるやつなんデスが。  っていうか、匂いをかぐな、フチについた口紅の位置を確認するな、あまつさえそこに口をつけるな。  そして何しれっと飲もうとしてるんだ、それはわたしのティーカップだと言っておろうがっ。  頭ん中でまくし立てるも山田はくいっとカップを傾けた。  瓶底眼鏡を湯気で曇らせながら、こくこくとノドが動いて完全にカップがひっくり返る。 「ハナコの入れた紅茶はまた格別だな」  こいつ、本気で飲み切ったよ。満足げにカップ戻してくんな。ってか、よくそんな熱いもん一気飲みできたな。それに山田のために入れた覚えはこれっぽっちもないっ。  言いたいことは山ほどあるのに、王子だからって言葉にできないのが口惜しすぎる。  とにかく今すぐ追い返すなり、自分が退散するなりしないとマズいんじゃ。 「シュン王子ぃ? そっちで何やってるんですかぁ?」  げ、言ってるそばからまためんどくさいのが。 「せっかくユイナが王子のために入れたのにぃ。一口も飲まずに席を立つなんて、もぉヒドイじゃないですかぁ」  本人的には可愛らしくぷんぷんしてたんだろうな。  でもわたしの姿を見た途端、ユイナのヤツ悪鬼のごとくの顔になってるし。 「……なんでハナコ様がここにいるのよ?」 「なんでと言われても。わたくしはティータイムをたのしんでいただけよ。ね、ジュリエッタ」 「ええ、今日はお天気もいいですし、外でお茶をするにはもってこいですわ」  うふふと微笑み合った未希が、満面の笑みでわたしのカップに紅茶をつぎ足した。ってか、それ山田が口付けたヤツだから勘弁してっ。 「そんなこと言って、ユイナのこと見張ってたんでしょう?」 「わたくしが? あなたを? なぜ?」 「隠さなくったっていいんです。ユイナがシュン王子に気に入られてるから、ハナコ様、それがおもしろくないんでしょう?」  ふふんと得意げになりながら、山田の腕にしがみつく。  それを黙ってやらせてる山田も、ユイナに対して悪い気はしてないんだろうな。 「何を勘違いしているのか知らないけれど、あなたとシュン様はとてもお似合……」 「そろそろ時間だな。すまないハナコ。寂しいだろうがわたしはもう行かねばならない」  遮るように山田が口をはさんできた。やんわりとユイナの手を(ほど)くと、元いた方へ戻っていく。  ってか、寂しいってなんだ? 初めっからお前はお呼びでないんじゃ。 「まぁいいわ。もう王子ルートに入ったんだし……」  ぼそっと言うと、残されたユイナがふてぶてしくわたしを見下ろしてきた。 「のぞき見してた件は水に流してあげます。その代わりハナコ様、雪山イベントには絶対に参加してくださいね?」  雪山イベント? っていうか今夏前よ?  鼻息荒く去るユイナを見送ってから、解説プリーズ的に未希の顔を見た。 「ハナコ様、ここではアレですから、またパジャマパーティーの時にでも……」  これは詳しく分かってるって顔だな。おお、心強い。やっぱ未希がいてくれてホントよかった。 (にしても、ユイナのヤツ、わざとこっちを怒らせようとしてるんじゃ……)  まるで宣戦布告?  安い挑発に乗るのもシャクだけど、今回はあえて受けて立とうじゃないの。  ってなわけで、本日のお茶会はお開きってことで。  山田が飲まなきゃもっと続きがたのしめたんだけどねっ。
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