第33話 学園祭と華子の願い

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第33話 学園祭と華子の願い

 午前中は取り巻き令嬢たちとあちこちを回った。  ゲームイベントの劇は午後イチでやる予定。それが終わるまで生徒会には近づかないよう気をつけなくっちゃ。  言っても劇のチケットは抽選で配り終えてるって話。観たくても観られないって生徒も多かったみたい。  劇自体は面白そうだから、健太に記憶オーブに録画を頼んだんだよね。でも黒歴史は残したくないって拒否られちゃった。  未希とはお昼に合流することになっている。わたしの事情にばっかりつき合わせるのも申し訳ないから、午前の間はお互い自由行動ってことで。  にしても、雰囲気もノリも日本の高校の学園祭って感じでさ。とても貴族の通う学園とは思えない。  所詮ゲームの設定って言えばそれまでなんだけど。  このユルユルなセカイがわたしにとっての現実なわけで。なんだかやるせないとか思っちゃう。 (どっちみち逃げ出せないんだし、たのしまないと損よね)  イベント回避したいなら、休んじゃえばそれで済むんだけど。  逃げるのもなんかシャクじゃない? 助けを待つだけの悲劇のヒロインとか、わたしには性に合わないし。  ってなわけで、午前中いっぱいは学園祭を満喫することに。  食べ物提供してるところなんかは各家から連れてきたコックに作らせてるし、そこは金持ち学園ならではって感じ。  途中お花摘みで化粧室に寄って、出てきたら取り巻きたちはまだ誰もいなかった。  先に行っててもいいかな? どうせいつの間にか誰かしらに囲まれてるし。  にぎわう廊下をひとり気ままに歩き出した。  いつもなら注目を集めるわたしだけど、今日ばかりはみんなお祭りに夢中みたい。  仲良さそうにしてるカップルとかも結構いて、ちょっとうらやましく思ったり。  まぁ、わたしは公爵令嬢だし? 立場的に気軽な男女交際なんてできっこないんだけどさ。  あ、あそこのふたり、お化け屋敷に入るんだな。怖がってるフリして、女子は男子に甘える気満々そう。  学園祭なんていちゃつくためのイベントだもんね。やっぱ、裏山(ウラヤマ)。くそっ、()ぜろ、リア充っ。  なんて表面ニコやかに内心で毒を吐いてたら。 「ハナコ嬢!」 「ダンジュウロウ様……」  だからなんで独りきりんときにやって来るんだ、君たちは? 「見つけた。シュン王子にここの区画にいるだろうと言われて来たんだ」  そりゃあ、いるでしょうよ。  山田はこの胸のブローチ使って、わたしの動向を常に見張ってるんだから。 「ハナコ嬢はあそこに入りたいのか?」 「え?」  あそこってお化け屋敷のこと? わたしがそっちの方を見てたからかな。 「ひとりで入るのが怖いなら俺が付き合っても構わないが」 「まさか。わたくし、ああいったものには興味なくってよ」  っていうか、お化け屋敷ってヒロインとダンジュウロウのイベントじゃなかったっけ?  で、お化けを怖がるのはダンジュウロウの方。完璧主義な彼の意外な一面を見たヒロインが、やだ、この(ひと)かわいい、って距離が縮まるって展開だったはず。 「そうか? 別に遠慮はいらないんだが……」 「ほほほ、強がらなくてはいけない殿方もたいへんですわね。中には怖がりな方もいるでしょう?」  おっと、余計なこと言っちゃった。  ダンジュウロウの内情は知らないフリしとかないと。 「いや、先ほど一度入ったからな。道順も脅かされるタイミングもすべて把握済みだ。それが分かっていればどうということはない」  ってか、すでにユイナとイベント消化済みですかい。  ユイナって本当に節操なくイベントこなしてんのね。  夏休みにもダンジュウロウと公園デートイベントがあったって健太が言ってたし。  急に揺れたボートの上で抱きしめ合いながら、いい感じでふたり見つめ合ってたって話。  ん? 考えてみると、健太ってば夏休み中ずっといちゃつくカップルのぞき見してたんか。  マサトの海水浴イベントもそうだけど、姉ちゃんのためにむなしい思いさせちゃってごめんよっ。  にしても、山田とのイベントもそれくらい精力的に向き合ってほしいもんだわ。  雪山イベントが上手くいかなかった分、今日のキスイベントは何としてもユイナに完遂(かんすい)してもらわないと。 「用事はそれだけですの?」 「いや、本題はこれだ」  上質そうな封筒を差し出されて、反射的に受け取った。  なんかどこかで見たことあるような?  っていうかコレ、王家の(はく)押し封筒だし。赤い封蝋(ふうろう)は山田個人が使う(いん)で押されてる。  山田から届いたお茶会の招待状とまったく同じもんなんですけど。 「な、なんですの? これは」 「シュン王子からだ。中には生徒会でやる劇のチケットが入っている。ハナコ嬢にはぜひ来てほしいとのことだ」  そんな直前になって言われても。  王子からの招待を「行けたら行くね」でスルーする訳にもいかないし。うっかりしてたら時間が過ぎてたってことにすれば何とかイケるかな? 「ハナコ様、どうかなさいまして?」 「ジュリエッタ……」  途方に暮れてたわたしに助け舟が!  って思ったんだけど。 「ああ、ジュリエッタ嬢か。ちょうどいい。シュン王子の希望だ。時間になったら君が必ずハナコ嬢を連れてきてくれ」 「承知しましたわ、ダンジュウロウ様」  もう! ダンジュウロウにしてやられたって感じ。  伯爵令嬢のジュリエッタじゃ、公爵家のダンジュウロウの言葉を拒否なんてできないからね。  これじゃうっかりなんて言い訳もできなくなった。それやったらジュリエッタが責められかねないし。 「ごめん華子。声かけるタイミングが悪かった」 「いいよ。未希は助けようとしてくれたんでしょう?」 「それはそうなんだけど……」 「劇を見るだけだし、今回は健太もそばにいるしね。なんとかなるよ、きっと」  別に劇のセリフを覚えてるわけじゃないし。  例えユイナにハプニングがあったとしても、代役をわたしがやるなんてことはまずないだろう。 「じゃあ、行ってくる」  どうしても居合わせなきゃいけないってなら、ユイナと山田のイベント、きちんとこの目で見届けようじゃないの。  腹を決めて、開始時間ギリギリに生徒会の演目へとわたしは向かった。
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