2.館の女

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 バシュ!バシュッ!!  オルグレウスに向かって、糸の塊が間髪入れず飛んでくる。  オルグレウスは、その全てを躱し、右足を強く踏み込み。  巣の主に向かって走り出した。  巣の主は、素早く動けない。速度のある相手を狙い仕留める事も出来ない。  ==アれは餌でハなイ。人のウつわに、そうでハないモノがスんでイル。ソんな訳のワからナいモノに用はなイ。  主は糸の塊を放出し続ける。オルグレウスは、右に左に最小の動きで躱し、主へと距離を詰めて行く。  が。  突然、オルグレウスの動きが止まった。床上10センチの空中で、走る姿勢のまま固まる。  ぶるぶると、オルグレウスの身体が細かく震える。右膝から下と右肘から下しか動かない。何が起きた?思った瞬間、顔と左手に当たる感触で理解した。  見えない網に引っかかったのだ。この網を構成する糸は、不可視だった。 「ははは!!」 階段の上から、女が笑った。 「いいざま!!」 「ぐっ!」 オルグレウスは、全身に力を入れて外そうとするが、びくりともしない。網のたわみによって、ぶるぶると体が震えるばかりだ。辛うじて動く右手でとっさに網の一部を手さぐりに掴むが、手首から下が粘着に捕まり更に動けなくなった。  何やってんだ!!  ーうるせえ!黙ってろ!!  ファーレインの中で、揉める二人。  高みから様子を眺める女は、満足気に微笑んだ。そして、今まで隠していた真の姿を晒す。  女は、酒にでも酔った様な耽美な顔で、尖った顎を上げ、目を細めた。  反らした背がドレスの下で急激に膨らみ、突き破って現れる。  くたびれた衣服の様にへなへなだったそれは、息を吹き返すように、或いは、萎んだ花が再び開く様に、ふぁさりと広がる。  女の背に現れたのは、船の帆の様に薄く、自分の身の丈はあろうかと言う程大きな、四枚の、鱗状の模様のある瑠璃色の羽根だった。  女は、ドレスのスリットから太腿を剝き出しにして、階段の手すりにブーツを履いた足を掛けると、踏み台にしてひらりと飛んだ。見る者を幻惑するような羽ばたきと共に、オルグレウスの傍に着地する。  オルグレウスは、射る様な目で女を見た。  女は、意に介さず、オルグレウスを見つめる。 「害虫は駆除しなきゃね」 「どっちが」 オルグレウスは、冷たく言った。  女は、嘲笑を浮かべ、赤い口紅の塗られた唇を艶めかしく上下に開いた。喉の奥から、細長い灰色の管が、するすると伸びてくる。  オルグレウスは、ぎょっとして目を見開く。 「なんだよ、これじゃキスできねえじゃねえか!」  女は、妖しく目を歪めた。  ズびゅッ!!と急激に管が伸びて、鋭い管の先がオルグレウスの胸を刺した。 「がっ!」  激痛と、加えて視界が歪みだす。  苦しい・・息が出来ない・・っ    びく!びくんっ!と、激しく痙攣を起こしたかと思うと、ファーレインは、がくりと首を折り、そのまま、ぐったりと動かなくなった。
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