9人が本棚に入れています
本棚に追加
バシュ!バシュッ!!
オルグレウスに向かって、糸の塊が間髪入れず飛んでくる。
オルグレウスは、その全てを躱し、右足を強く踏み込み。
巣の主に向かって走り出した。
巣の主は、素早く動けない。速度のある相手を狙い仕留める事も出来ない。
==アれは餌でハなイ。人のウつわに、そうでハないモノがスんでイル。ソんな訳のワからナいモノに用はなイ。
主は糸の塊を放出し続ける。オルグレウスは、右に左に最小の動きで躱し、主へと距離を詰めて行く。
が。
突然、オルグレウスの動きが止まった。床上10センチの空中で、走る姿勢のまま固まる。
ぶるぶると、オルグレウスの身体が細かく震える。右膝から下と右肘から下しか動かない。何が起きた?思った瞬間、顔と左手に当たる感触で理解した。
見えない網に引っかかったのだ。この網を構成する糸は、不可視だった。
「ははは!!」
階段の上から、女が笑った。
「いいざま!!」
「ぐっ!」
オルグレウスは、全身に力を入れて外そうとするが、びくりともしない。網のたわみによって、ぶるぶると体が震えるばかりだ。辛うじて動く右手でとっさに網の一部を手さぐりに掴むが、手首から下が粘着に捕まり更に動けなくなった。
何やってんだ!!
ーうるせえ!黙ってろ!!
ファーレインの中で、揉める二人。
高みから様子を眺める女は、満足気に微笑んだ。そして、今まで隠していた真の姿を晒す。
女は、酒にでも酔った様な耽美な顔で、尖った顎を上げ、目を細めた。
反らした背がドレスの下で急激に膨らみ、突き破って現れる。
くたびれた衣服の様にへなへなだったそれは、息を吹き返すように、或いは、萎んだ花が再び開く様に、ふぁさりと広がる。
女の背に現れたのは、船の帆の様に薄く、自分の身の丈はあろうかと言う程大きな、四枚の、鱗状の模様のある瑠璃色の羽根だった。
女は、ドレスのスリットから太腿を剝き出しにして、階段の手すりにブーツを履いた足を掛けると、踏み台にしてひらりと飛んだ。見る者を幻惑するような羽ばたきと共に、オルグレウスの傍に着地する。
オルグレウスは、射る様な目で女を見た。
女は、意に介さず、オルグレウスを見つめる。
「害虫は駆除しなきゃね」
「どっちが」
オルグレウスは、冷たく言った。
女は、嘲笑を浮かべ、赤い口紅の塗られた唇を艶めかしく上下に開いた。喉の奥から、細長い灰色の管が、するすると伸びてくる。
オルグレウスは、ぎょっとして目を見開く。
「なんだよ、これじゃキスできねえじゃねえか!」
女は、妖しく目を歪めた。
ズびゅッ!!と急激に管が伸びて、鋭い管の先がオルグレウスの胸を刺した。
「がっ!」
激痛と、加えて視界が歪みだす。
苦しい・・息が出来ない・・っ
びく!びくんっ!と、激しく痙攣を起こしたかと思うと、ファーレインは、がくりと首を折り、そのまま、ぐったりと動かなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!