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2.館の女
町外れの古びた館の前に、ファーレインは立っている。
見上げれば、濃い藍の空に、淡い黄色に輝く少し欠けた月が浮かんでいる。あと数日で満月だ。
木造二階建てのその館は、かつての領主が住んでいた。
暫く空き家だったのが、気が付くとどこぞの貴婦人が暮らし始めていた。夫はいない様であった。
更に、暫くすると、男が住み始めた。どうやら良い男が出来たようであった。近くに畑のある農夫たちは、夫人が一人で暮らすのは危ないと気になっていた為、ほっと胸を撫でおろした。
しかし、後にその男には、れっきとした妻がいたことが発覚する。
家に帰らなくなった夫を方々探し回った妻は、館の貴婦人と夫が一緒にいる所を見たと言う農夫の証言を得て、館へ怒鳴り込んだ。
「この泥棒女!!」
玄関の扉を勢いよく開け放った妻は、昼間であるにも関わらず、暗闇に閉ざされている屋内にぎょっとした。頭に血が上っていた妻は、館前まで来た時、窓と言う窓が全て閉め切られているという事に全く気付かなかったのだった。
玄関から入る昼間の陽光が、闇を薄める。僅かに視界の利いた妻の目が見たのは、奥の闇の中に浮かび上がる、赤い二つの点の様な光だった。
妻は、人ならざる存在を感じ、慌てて逃げ出した。
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