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オルグレウスは、振り返った。
月の淡い光を浴びて、青色のドレスを着た美しい貴婦人が立っていた。
オルグレウスは、目を見開いた。いい女だ。
ファーレインは、慌てる。
おい!!相手が何だか分かってるのか?!
ーうるせえな。分かってるよ。
中で応えて、オルグレウスは女を見る。
「随分、手間をかけてるな」
女は、ゆったりと微笑む。
「ようこそ、我が愛の巣へ」
女はそう言って、しずしずと中へと入っていく。
手も触れず、扉が閉まった。
オルグレウスは、顔だけ動かして、女の姿を追う。
「お前ら、どこから来たんだ?」
「さあ・・」
女は、オルグレウスに背を向けながら答える。
「月かしらね」
オルグレウスは、ふっと笑った。
「面白い事言うな」
「ありがとう。貴方は何処から来たの?」
「人間の女の腹の中から」
女は、足を止め、振り返る。
「面白いこと言うわね」
「お褒めに預かり、光栄に存じます」
オルグレウスは、そう言って、右腕を優雅に胸の前に当て、小さく頭を垂れた。
女は、目を見開く。
「貴方、とても美しいわ」
オルグレウスは、顔を上げ、微笑む。
「貴方には負けますよ」
「名前は、何と言うの?」
「オルグレウス」
女は、微かに目を細める。
「どこかで聞いたような・・」
「ほんとに?俺、有名人なんだな」
「どうしてここに?」
「勿論、貴方に会いに」
女は、ゆったりと微笑んで、オルグレウスに近づく。
「嘘でも嬉しいわ」
女は、闇を吸い込んだような黒い瞳でオルグレウスを見つめる。均整の取れた、美しい顔だ。
美しい、魔族の女の顔。
「あんた、俺が欲しいのか?」
低い押し殺す様な声で、オルグレウスが言った。
女は、囁く。
「くれるの?」
「あげない」
女は、ふっと笑った。
「残念」
女はそう言って、ひらりと身体を翻す。
その瞬間、オルグレウスの眼前に白い糸の塊が飛んできた。
「!」
オルグレウスは、とっさに上体を右に傾け、躱す。
糸の塊は、オルグレウスの左耳をかすめ、すぐ後ろの壁にべちゃりとへばりついた。網を固定している強度を考えると、この粘着物は、一度着いたら離れない。
「上手く躱したわね」
女が、舞うように階段を上がる。
「でも逃げられないわよ」
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