2.館の女

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 オルグレウスは、振り返った。  月の淡い光を浴びて、青色のドレスを着た美しい貴婦人が立っていた。  オルグレウスは、目を見開いた。いい女だ。  ファーレインは、慌てる。  おい!!相手が何だか分かってるのか?!  ーうるせえな。分かってるよ。 で応えて、オルグレウスは女を見る。 「随分、手間をかけてるな」  女は、ゆったりと微笑む。 「ようこそ、我が愛の巣へ」 女はそう言って、しずしずと中へと入っていく。  手も触れず、扉が閉まった。  オルグレウスは、顔だけ動かして、女の姿を追う。 「お前ら、どこから来たんだ?」 「さあ・・」 女は、オルグレウスに背を向けながら答える。 「月かしらね」  オルグレウスは、ふっと笑った。 「面白い事言うな」 「ありがとう。貴方は何処から来たの?」 「人間の女の腹の中から」  女は、足を止め、振り返る。 「面白いこと言うわね」 「お褒めに預かり、光栄に存じます」 オルグレウスは、そう言って、右腕を優雅に胸の前に当て、小さく頭を垂れた。  女は、目を見開く。 「貴方、とても美しいわ」  オルグレウスは、顔を上げ、微笑む。 「貴方には負けますよ」 「名前は、何と言うの?」 「オルグレウス」  女は、微かに目を細める。 「どこかで聞いたような・・」 「ほんとに?俺、有名人なんだな」 「どうしてここに?」 「勿論、貴方に会いに」  女は、ゆったりと微笑んで、オルグレウスに近づく。 「嘘でも嬉しいわ」  女は、闇を吸い込んだような黒い瞳でオルグレウスを見つめる。均整の取れた、美しい顔だ。  美しい、魔族の女の顔。 「あんた、俺が欲しいのか?」 低い押し殺す様な声で、オルグレウスが言った。  女は、囁く。 「くれるの?」 「あげない」  女は、ふっと笑った。 「残念」 女はそう言って、ひらりと身体を翻す。  その瞬間、オルグレウスの眼前に白い糸の塊が飛んできた。 「!」 オルグレウスは、とっさに上体を右に傾け、躱す。  糸の塊は、オルグレウスの左耳をかすめ、すぐ後ろの壁にべちゃりとへばりついた。網を固定している強度を考えると、この粘着物は、一度着いたら離れない。 「上手く躱したわね」 女が、舞うように階段を上がる。 「でも逃げられないわよ」
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