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ー 北棟 学長室 ー
「ネロ、次の学生は大丈夫なんだろうな?」
「えぇ、勿論です。」
「ふん、何を根拠に言っておるのか。」
「僕が今まで洞爺学長をガッカリさせたことがありましたか?」
「重要なのは儂ではない、『ミサカ』の連中だ。」
「白波瀬家、ご存知ですよね?そこの末裔です。」
ネロの言葉に、洞爺は目を丸くした。
「…白波瀬とな。途絶えたわけでは無かったのか。」
「えぇ。ですが、まだ彼女は自分の力を知ってはいません。」
「白波瀬の血が流れているのであれば、潜在的な力は備わっておろう。」
「えぇ、恐らくは。いずれ実践で開花するものかと。また定期的にご報告に上がります。」
ネロは頭を下げると学長室から出ていった。洞爺は席から立ち上がり、窓際に移動し外を眺めた。北棟の最上階にある学長室からは学園中を見渡せる眺めが広がっていた。
「…いよいよ明日から新しい区切りが始まるのう。」
ー 雪乃の部屋 ー
あれからどれくらい経ったのか、雪乃は自然と目を覚ました。ぼやぁと目を開けると寝る前に見た天井が視界に入り、目を擦りながら上半身を起こした。
「…寝ちゃってたのか。」
「お、起きた?」
「はい、今起きまし…って、えー!?」
雪乃の目の前には、スナック菓子をバリバリと食べながら胡座をかいている学生がいた。
「あれ、ここ私の部屋だよね…え、夢?」
雪乃は状況を飲み込めずに混乱していた。
「何をブツブツ言ってんだ?」
「あ、あの…失礼ですがどなたですか?」
「あ、そうだね、ちょっと待って。」
その学生はお菓子を食べるのを一旦止めると、汚れた指をチュパチュパとしゃぶって着ていたTシャツで拭くとサッと立ち上がった。
「ぼくは二年生の曽我谷津楓。君の先輩ってことさ。」
黒髪のショートヘアでTシャツにハーフパンツ、そして一人称が『ぼく』。雪乃ははじめ女性か男性か分からなかったが、男子禁制の寮で、よく見ると豊満な胸がTシャツの下に隠れていることを確認して、楓で女性だと確信し安堵の表情を浮かべた。
「あの、私は今日からこの寮に住むことになった白波瀬雪乃です。よろしくお願いします。」
雪乃は立ち上がってお辞儀をした。
「白波瀬…君がか。期待してるよ。」
「期待?」
「『特例班』の活動だよ。まぁ最近は活動がないんだけどね。」
「特例班…あの、私その活動内容はネロさんから全く聞いて無くて。何をするんでしょうか?」
「え、ミドリっち教えてないのか。君も詳細聞かずによく来たな。…まぁぼくも同じようなスタートだったけど。活動は見た方が早いと思うよ。あ、そうそう、ミドリっちがさっき君に渡し忘れたって言って預かり物を渡しに来たんだった。これ。」
楓はポケットからスマホを取り出して雪乃の渡した。
「それは特例班に支給されるスマホでスピリットフォンって言うんだ。ぼくたちは略して『スピ』って呼んでるよ。ミドリっちからの連絡とか、特例班の関係する連絡はスピを通じて来るからさ。あと、色々なアプリも入ってるから暇な時に見てみて。」
「ありがとうございます。」
雪乃はスピの画面に触れて電源を入れた。電話やチャットをはじめとしたアプリの他、アイコンだけだと何のアプリだかわからないものもあった。
「っと、じゃあぼくは部屋に戻るよ。ちなみにぼくの部屋は君の隣の706だからよろしく!じゃね!」
楓はそそくさと部屋から出ていった。
「あ、ちょっと。」
まだまだ聞きたいことがあった雪乃が楓を追いかけたが、既に玄関から出ていった後だった。仕方なく開けっ放しのドアを閉めに向かったが、ドアが変形しており、引いてもビクとも動かなかった。
「え、どゆこと?」
オートロック式のドアをどうやって開けて部屋に入ってきたのかという疑問は最初からあった雪乃だったが、まさかドアがこんな状態になっているとは思いも寄らなかった。雪乃は悩んだ結果、自分ではどうにも出来ないと思い、仕方なくスピを取り出してヤナギに電話をした。
すると、ものの数秒で音もなく現れたヤナギはドアを見るなり、「またあのおてんば娘か。」と呟いた。
「あ、あの、これって…。」
「嬢ちゃん、あれ。」
ヤナギは雪乃の言葉を遮るように部屋の中を指さした。釣られて部屋の中に振り向いた雪乃。特に何もなく首を傾げながら向き直ると、そこにヤナギの姿は無かった。
「え、また!?…え、直ってる…。」
あの一瞬で一体何をしたのか、理解できるわけでもなく、ヤナギはこういう人なんだと自分に言い聞かせながら雪乃は直ったドアを閉めた。
「はぁ、初日から濃いな。そう言えば今何時なんだろ?」
雪乃はスピを取り出して画面で時間を確認した。
「もう5時か。そいや、お腹空いたなぁ。」
"ピコーン!メッセージだよ!"
タイミング良くスピが話し出し、雪乃は驚いた。ちなみに「ピコーン」というのは音ではなく、「ピコーン」と喋っている。そのスピの声は機械的な声ではなく、人間が話している感じがした。
"ピコーン!メッセージだよ!"
「あ、はいはい。えと、これか。」
メッセージアプリを開くとネロからのメッセージが届いていた。
『北棟に集合』
その一言だった。
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