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ゴーストの手が抜けた伽藍は肩を押さえながら一旦身を引いた。
「寒川さん!次!」
「左下27!」
バキューン!!
「右下32!」
バキューン!!
「頭25!」
バキューン!!
ゴーストは全てを被弾し、次の瞬間、空気を送られている風船のごとく一気に膨らむと、バンッ!!と弾け飛んだ。
「…はぁ、殺れたのかしら。」
「班長は間違いなく核の全てを撃ち抜いてたわ。」
「なら良かっ…っ!?」
「…う、嘘でしょ?」
弾け飛んだゴーストの細かな欠片の1つ1つが宙に浮き、一瞬で集まるとゴーストが再び姿を現した。
「こ、こんな現象見たこと無い。」
「寒川さん、このゴーストほんとにシルバークラスですの?この回復力と攻撃の効かなさ…ゴールド、いえ、プラチナに近いかもしれないわ。」
「プラチナクラスなんて、私出会ったことないわよ。」
「とにかく一旦この場から離れましょう。」
いおりが伽藍の方を見ると伽藍も頷いた。そのまま雪乃に視線を向けると、雪乃は尻もちをついたまま震えていた。
「白波瀬さん、今行きま…なっ!?」
いおりと千里の間をゴーストが通り抜けた。ゴーストは雪乃に向かって一直線に向かっていた。
「「白波瀬さん!!」」
いおりと千里が同時に叫んだ。雪乃が声に反応し、視線を正面に向けると、悍ましい表情のゴーストが目と鼻の先に迫っていた。
…あ、今度こそ死ぬんだ。
雪乃のそのまま霊に身体を貫かれた。
「白波瀬さん!」
「…あいつ…え?一体何が起こったの…。」
ゴーストは雪乃の身体を貫ぬき、身体に刺さったまま動かなくなったのだ。雪乃の表情は苦悶の表情ではなく、まるで眠っているかのように穏やかだった。
「班長、あいつ一体どんな状態なのよ。」
「…私にもわかりません。寒川さん、あなたの目で何かわかるかしら。」
「…ゴーストの核が何か変わってる。こんなの見たことないかも。」
…私、死んじゃったの?
雪乃はゆっくりと目を開けると、そこは真夜中の森ではなく、周りに何もない草原にいた。空は雲一つ無い快晴で心地良い風も吹いている。
「…ここはどこなの?天国?」
バサッバサッ。背後から草を踏む音がして雪乃はサッと振り返った。見たことのない男性がこちらに向かって歩いてきていた。
30代くらいの大人しそうな雰囲気の男性は、雪乃と目が合うと歩みを止めた。
「…あなたは誰ですか?」
雪乃が質問した。
「…わからない。…君は?」
「私は白波瀬雪乃です。あなたは何故ここに?」
「…わからない。君は?」
「それは私もわからないです。…あなた、もしかして…」
雪乃は男性の顔を凝視し、さっきのゴーストと似ていることに気が付いた。
「僕の顔に何か付いてますか?」
「あ、いえ、すみません。…あの、失礼ですが、あなたは自分のことで何か覚えていることはありませんか?」
「僕のこと…。」
男性は下を向きながら必死に考え始めた。
「僕は…僕は…」
雪乃は何も言わずにそっと見守った。
「白波瀬さん!」
ゴーストが突き刺さったまま意識を失っている雪乃にいおりはそっと近付いた。伽藍も肩を押さえながら近付くと、雪乃の腕を握った。
「…脈はある、生きてるわ。」
「…班長、私の目で見ると白波瀬さんも普通の人間とは違うように見えるの。」
千里が首を傾げながら言った。
「違うってどういうこと?」
「何ていうか魂が抜けているような…でも脈はある、正直わからないわ。」
「班長、どうするのよ、このまま見てるの?もう一回ゴースト攻撃するの?」
伽藍がいおりに問い掛けた。答えがわからないいおりは黙ってしまった。
「攻撃するな!」
3人の背後からネロが叫んだ。
「…先生、気が付いたの。正直、存在忘れてたわ。」
「花畑、今救援部隊を呼んだ。お前は曽我谷津と一緒に戻れ。曽我谷津には俺の力を注いでおいた。正直厳しいかもしれんが、後は本人の生命力に賭けるしかない。」
伽藍は頷いて楓の元に駆け寄った。
「班長、気を失っていてすまなかった。」
「そんなことより白波瀬さんが。」
「大丈夫だ。これが白波瀬家のやり方『浄霊』だよ。僕たちは待つことしか出来ない。」
ネロは痛みに耐えながら雪乃の側に腰を下ろした。
「…駄目だ、思い出せない。」
男性はイラつきで髪を掻きむしった。
「私、あなたのこと知らないけど、あなた…多分死んでいるわ。」
「僕が死んでるって…っ!?」
『死』という言葉をきっかけに男性は何かを思い出し、頭を押さえもがき始めた。
「お、思い出した。僕は…僕は殺されたんだ。あいつに…。」
「何か辛いことがあったのですね。」
「僕は、会社の同僚に殺されたんだ。思い出した。僕は裏切られたんだ。何で僕が…僕だけが死ななければならなかったんだ。うわあああああ。」
男性は呼吸を荒くしながら苦しみだした。
「僕は人間が嫌いだ…簡単に裏切りやがる…人間なんて、人間なんて…っ!?」
雪乃は何も言わず、男性を優しく抱きしめた。
「あなたは悪くない。あなたはもう何もしなくていいのよ。」
「…思い出したよ。僕は誰彼構わず殺したかった。…君も最後の記憶にある。」
「あなたのせいじゃない。あなたはもう何も苦しまなくていいの。」
雪乃は優しい声で囁いた。
「…僕は…僕は一体どうしたら。」
「あなたは死を認めて、今から光が指す場所を目指せばいいだけ。あなたはこの世に留まってからしてきた事を後悔してるなら、それでもう償いは済んでいるわ。」
「…ご、ごめんなさい。」
男性は涙を流した。
雪乃はそっと男性から離れると、男性に向かって空から一筋の光が差した。
「なんだろ、とても温かい。…君も温かった。」
雪乃はニコッと微笑んだ。
「ありがとう。」
男性は光の中を通り空へと昇っていった。
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