第1話『インフィニティ・ハイスクールへようこそ』

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「今日からここが君の住む場所だ、雪乃(ゆきの)。」 「ここが、あのインフィニティ・ハイスクール…、まさか本当に私が来られるなんて…凄いです。」 雪乃は、感動で両手に持っていた鞄を地面に落とした。 「そうだ、ここが中央都市センシアにある特別進学学園『インフィニティ・ハイスクール』だ。今、目の前の遠くに見えるあの建物は東棟で、君が明日から授業を受ける場所だ。そして、君の住まいがあるのはあっちの北棟の方角だ。」 雪乃は指差された方向を見て、目を輝かせた。 今日は3月31日。つまり、明日から新年度が始まることになり、白波瀬(しらはせ)雪乃は、明日から高校生となる。雪乃は美しい白色のショートヘアが特徴の小柄で大人しい性格の持ち主だ。 そして、雪乃をこの学園に連れてきたのは、この学園の教師の一人である碧川(みどりかわ)ネロ。彫りの深い端正な顔立ちでスラリと背が高く、緑色のベストがトレードマークの39歳の男性だ。 ネロは、雪乃を先導して巨大な学園の門を通ると、東棟へと真っ直ぐ伸びる通路の脇に並べてある直径1メートル程の円盤のような物を手に取り、円盤の中央に掌を当てた。すると、ブワンッという機械音と共に円盤の縁が赤く点灯した。 「あの、これは…。」 雪乃が不思議そうに質問すると、ネロは見てれば分かると笑みで返し、円盤を地面に落とした。円盤が壊れることを危惧した雪乃は目を逸らしたが、円盤が地面と衝突した音が聞こえなかったため、恐る恐る視線を向けると、その円盤は地面スレスレの所でユラユラと浮いていた。 「え!?凄い。」 目を丸くした雪乃を見たネロは、雪乃から鞄を2つ預かるとそのまま得意気に円盤に飛び乗った。 「これはフライングサークルという学園内を移動するために使用する乗り物だ。学園に通う教師や学生、関係者のみが使用できるようになっている。君の掌も登録済みだ、やってみな。」 雪乃はネロの指示に従い、並べてあるフライングサークルを持ち上げた。 「思ったより全然軽い。」 「見た目は重厚な素材に見えるが、最軽量の新種の人工金属で出来ている。重さは1キロ程度だが象が乗っても壊れない頑丈な物だ。」 雪乃はさっきのネロを真似て掌をフライングサークルの中央に当てた。ボワンッと音と共に起動すると、雪乃はそっと地面に浮かべた。 「よし、じゃあ乗って。」 雪乃が右足をフライングサークルに置くとゆらゆらと揺れるため、なかなか左足を乗せることが出来なかった。 「大丈夫、思い切って乗ってごらん。バランスはフライングサークルが自動で取ってくれるから転ぶことはない。」 雪乃はネロの言葉を信じて、目を瞑りながら左足を思い切ってフライングサークルに乗せた。ゆらゆら揺れてはいるが、転げ落ちそうな感覚がないため雪乃は目を開けた。 「乗れたじゃないか。」 ネロはニコッと笑った。雪乃は宙に浮いている不思議な感覚に胸がドキドキしていた。 「移動するのは頭で思い浮かべればいい。前に進む、止まる、旋回する、自由自在だ。」 「頭で思い浮かべる?」 「言葉で説明するより実際にやった方が早いだろ。僕に付いてきな。」 ネロはそう言うと、ゆっくりとフライングサークルを前進させた。 「え、ちょ、ちょっと待ってくださぁい。」 ネロを追いかけようと思った雪乃のフライングサークルは、ネロを追いかけるように前進を始めた。 「キャッ、う、動いた!」 「ハハハ、簡単だろ。このまま北棟まで行くぞ。」 ネロはスピードを上げた。 「ちょ、ネロさん、待ってくださいってー!」 雪乃のフライングサークルもスピードを上げた。 「やかましいと思ったらネロの奴か。今度はどんな子を連れて来たんだ。」 二人が去った場所から白衣を羽織った一人の男が二人を見つめていた。 北棟への道中、ネロは学園内を雪乃に紹介しながら進んだ。フライングサークルには通信機能もあり、風を感じながらも、足から骨伝導ヘッドホンのようにハッキリとネロの声を聞き取る事ができた。 「東棟と北棟の間は陸上競技場や屋内プール、屋内スキー場やスケートリンクに至るまで、あらゆるスポーツ施設がある。勿論、学生なら誰でも使用することができる。今日は明日の入学セレモニー準備のため、学生は立入禁止になっているから全く人気(ひとけ)が無いが、いつもなら多くの学生がいるエリアだ。」 「ここには何人くらい学生がいるんですか。」 「全学生で3000人くらいだな。君と同じ新一年生は1000人くらいいるわけだ。」 「1000…凄いです。」 「まぁ君は特殊な授業形態だから多くの同級生とはすれ違いになるかもしれないが。…お、見えてきたぞ。」 雪乃の視界にも北棟と思われる建物を捉えた。 「綺麗な建物ですね。」 東棟も遠目ながら巨大な建物に見えたが、北棟は更に巨大で真っ白に輝いて見えた。 「北棟は一般の学生や教師すらも立入禁止の聖域だ。君も普段は入ることが許されてはいない。「普段」はね。」 「…はい。」 ネロはそのまま北棟に向かって進むと、程なくして左の通路に曲がり、北棟から逸れた方向に進んだ。 「もう着くよ。」 雪乃は北棟の美しさに見とれて、余所見をしながら進んでいると突然フライングサークルが止まり、その反動で身体がふっ飛びそうになったが雪乃の動きに合わせてフライングサークルが浮き上がり身体を支えたことで事なきを得た。 「あ、危なかった。」 冷や汗をかいた雪乃は止まったフライングサークルからゆっくりと下りた。 「ったく、いくら安全性があると言っても余所見は駄目だぞ。」 「す、すみません。」 「わかりゃいい。それより着いたぞ、君の住む場所に。」 雪乃は目の前の建物に目を向けた。そこには、北棟の美しさとは真逆と言っていい程の年季の入った木造のアパートのような建物があった。 「え、ここ…?」
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