第1話『インフィニティ・ハイスクールへようこそ』

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「この学園の歴史は800年近い。その当初から唯一現存している建物がこの寮だ。どうだ、歴史を感じるだろ?」 ネロは笑顔で言った。その笑顔は素晴らしいだろ?という意味なのか、ボロいだろ?という意味なのか雪乃には分かる術が無かった。 「え、はい、凄い…その…じゅ、重圧を感じます。何か学園の生き字引的存在というか。」 「生き字引ね、確かにこの学園の過去を知る建物だ、言い表現だ。さぁ、中に入ろう。」 築100年以上は容易に経過していることが分かるその見た目に、雪乃は正直入ることすら躊躇ったが、ネロはアパートの正面入口のガラス戸を開けて中に入った。雪乃も慌ててネロの後を追った。 雪乃はガラス戸を開けて中に入ると、その光景に目を丸くした。外観とは似ても似つかない高級マンションのエントランスのような造りが広がっていたからだ。 「…え、これって…。」 「驚いただろ?建物の保存は外観のみ、内装は最新のものになっている。」 「でも広さも見た目より全然広いし。」 「無次元空間装置のお陰だ。まぁ詳しく説明すると長くなるから端折るが、簡単に言えば今の我々の次元と別の次元を繋げる装置でな、外観とは連動しないものだ。」 「凄いです。」 「ここは限られた女学生専用の寮だ。君の部屋に案内しよう。」 ネロはそう言うと、スマホを取り出して電話を掛けた。 「…私です。例の子を連れて来たので案内をお願いします。」 ネロが電話を終えた数秒後、エントランスの奥からフライングサークルに乗った人物が猛スピードでネロたちの元に向かって来た。 「ちょっと、ぶ、ぶつかる!?」 雪乃はネロの後ろに隠れた。 「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ。」 特徴的な笑い声が聞こえ、雪乃はそっと顔を覗かせた。そこには大きな口を開けて笑っている老婆がいた。 「雪乃、紹介するからちゃんと立ちなさい。」 ネロは雪乃を横に立たせた。 「ヤナギさん、こちらが今日からお世話になる白波瀬雪乃です。雪乃、この方はここの寮母のヤナギさんだ。」 「…寮母。」 ヤナギは見た目は80歳以上に見える老婆で、背丈は雪乃よりも小さかった。 「あ、あの白波瀬雪乃です。よろしくお願いします。」 雪乃が頭を下げると、ヤナギはゆっくり雪乃に近寄り、じーっと顔を見つめた。 「…え、えと…。」 「…ヒャヒャヒャヒャ、嬢ちゃん可愛いねぇ!」 「え、あの…。」 「ヒャヒャヒャヒャ、そのたどたどしい感じも新入生らしくて結構!嬢ちゃんの同級生ももう何人か来てるよ。案内しよう。」 ヤナギはエントランスのエレベーターに向かって歩き出した。鞄を持ったネロも二人の後を追うと、ヤナギはくるりと振り返り、ネロを睨み付けた。 「碧川、ここは男子禁制だ。」 「…あ、はい。」 ネロは猫に睨まれた鼠のごとく固まり、鞄を雪乃に渡した。さっきまでと全く違うネロの様子に、雪乃はヤナギの凄さを感じた。 エレベーターが閉まるとヤナギは7階のボタンを押した。 「…見た目は2階建てだったのに。」 「碧川から聞いただろ?見た目より広いって。…それより嬢ちゃん、この学園に来たのは何でだい?」 ヤナギは正面を向いたまま質問した。 「…理由という理由は。私、親が居なくてこの先どうしようかと思ってた時にネロさんがやって来て。」 「なら、自分がここに連れてこられた意味はまだ理解していないってことか?」 「何か、特例的な事をするとは聞きました。詳しくは学校が始まったら話すと。」 「またいい加減な連れてき方をしたもんだ、あやつは。嬢ちゃん、わたしゃ嬢ちゃんたちの世話係だ、何かあれば遠慮なく言ってくれ。」 ヤナギの言葉とともにエレベーターは7階に到着した。エレベーターから降りて左右を見るとどちらにも長い通路が伸びていた。 「広いから迷子にはならんようにな。嬢ちゃんの部屋はエレベーター降りたら右手に進んで3つ目の部屋『707』号室だ。」 ヤナギはそのまま右手に進み、707号室の前に着くと雪乃の右手首を掴み扉の中央部分に手を当てた。すると、間もなくガチャリと音がした。 「これがこの部屋の鍵だ。扉のこの金属部分に右手を翳せば解錠する。施錠する時も同じだ。部屋の中には生活に必要な家具や家電、設備は整っておる。不便があれば管理人室に電話をしなさい。」 「ありがとうございま…あれ?」 雪乃が礼を言おうとヤナギの方に向くと、そこにはもうヤナギの姿は無かった。 「…一体何者なの。」 雪乃はキョロキョロとヤナギを探しながら扉を開き、部屋に入った。部屋の内装は一人暮らしには広すぎる2LDKで、ヤナギの言った通りベッドやソファ、冷蔵庫に洗濯機と必要な家具家電は揃えられており、部屋の壁紙に合わせて色は基本白で統一されていた。 雪乃は統一感のある綺麗な部屋を見て興奮状態のまま一通り部屋の中を探検し終わると、ベッドに仰向けに寝転んだ。本当なら鞄の中身を整理したいところだが、何だかどっと疲れを感じ、そのまま静かに眠ってしまった。
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