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ー 治療棟一階カフェ ー
時刻が時刻なので、客は雪乃といおりのみで、カフェのマスターは、二人がメニューを見ていると温かいココアを静かに置いた。二人がえ?とマスターの顔を見ると、マスターは微笑んだ。
「学生が来ると私は決まってココアをお出しします。ココアは冷え切った身体だけでなく心まで温めてくれますから。あ、勿論お好きなものご注文くださいね。」
二人はペコリと頭を下げた。雪乃はマグカップを手にし、フーフーと少し冷ましてからココアを啜った。
「…美味しい。なんかホッとしました。」
「ほんと、安心する味ですね。」
いおりはふぅと溜め息をつくと、急に目に涙を浮かばせた。
「班長、これどうぞ。」
雪乃はハンカチを渡した。
「ごめんなさい、ありがとう。」
「あ、あの…班長と寒川さんは一学年違うのに息があった名コンビというか、凄く仲が良いんですね。」
「…うーん、仲が良いのかは正直私も分からないのだけれど、お互いがお互いの欠落している部分をフォローし合ってる、そういう仲なんですよ。」
「お互いがフォロー?」
「えぇ。簡単に言えば私が寒川さんの目の持ち主であれば1人で戦えますし、逆に寒川さんが核破銃を使えれば、態々私に核の位置を教えるなんてことしなくても自分で戦えるということですよ。」
「…あの、一学年違うってことは、寒川さんがまだ入学する前は、班長は別の誰かと組んでいたんですか?」
「いえ、その時は私には寒川さんと同じ『目』があったんですよ。それから…寒川さんは入学前まで核破銃を使用してたみたいなんですけど…事情があってそれができなくなってしまったみたいなの。」
「事情?」
雪乃はココアを一口啜った。
「…寒川さんのご両親は、中学生の頃に何者かに殺されてしまったんです。」
「え?ゴホゴホ…こ、殺された!?」
雪乃はココアで噎せた。物騒なワードにカウンターにいたマスターがビクっとなった。
「そのトラウマで銃が扱えなくなったと本人から聞いてます。」
「それはトラウマどころの話じゃ…。…班長の目はどうして能力が失くなったんですか?」
「…分かりませんの。この学園一年生の夏頃です。プラチナクラスのゴーストと戦ってから何故か能力が失くなってしまって。」
「…プラチナクラス。何か特別な能力を持ったゴーストだったんですか?」
いおりは首を横に振った。
「正直分かりません。姿は今まで見たことのない異型のゴーストでした。そして、そのゴーストには逃げられてしまいまして。」
…ゴーストって逃げることもあるんだ、と雪乃は思いながらココアを飲んだ。
「…私、寒川さんと約束してるのよ。お互いがお互いを支えあおう、死ぬ時は一緒よって。これは仲が良い友達とかではなく、戦友なんです。」
「…死ぬ時は一緒…まさか、班長、寒川さんにもしもの時があったらって、変なこと考えてませんよね?」
いおりは明確に答えずにニコリと微笑んだ。
「あ、ここね、カレーが美味しいのよ。」
「え!?カレーですか!」
話を逸らしたいおり。その話題がたまたま大好物のカレーだったため、雪乃は即喰い付いた。
「マスター!カレーください。」
「承知しました。」
雪乃はルンルン気分で鼻歌を口ずさんだ。
「フフフ。」
突如笑ういおりに雪乃は我に返った。
「いいのよ。なんか子どもみたいで可愛くて、こんな状況でも元気になれちゃうわ。私、白波瀬さんに出会えて良かったわ。ありがとう。」
いおりは優しく微笑んだ。雪乃は嬉しさと照れで顔を赤くしココアを飲んで誤魔化した。
ー ミサカ会合 ー
午前7時丁度。ネロを中心とした配置でミサカ会合が開会した。
「本日の朝方、特例班の活動中に重症者1名、負傷者3名という被害があったと報告をきいている。詳細を聞こうかの。」
トラの面の問い掛けから始まり、ネロはトラの面に身体の向きを変え答えた。
「ゴーストクラス2体が今までのものとは異なり手こずった結果です。」
「人間の遺体も見つかったそうだな。」
キツネの面が言った。
「そうそれ!この報告書見たらぁ、なんかゴーストが人間操ってる感じじゃん。こんなん見たことないって!」
ヘビの面が相変わらずの口調で言った。
「…新型のゴーストのようです。もう1体は今までにない異型でした。学生に聞いた話ですが、回復力も桁外れだったと。」
「なんかぁ、こんなのが2体も一気に来るなんて変じゃない?」
「…それは僕にも分かりかねますね。」
ネロはヘビの面を見ながら答えた。
「…白波瀬雪乃…彼女のせい。」
ネコの面がぼそりと呟いた。
「『金』、ゴーストの異変には白波瀬雪乃が関係してると言いたいのか?」
サルの面が尋ねると、ネコの面は頷いた。
「白波瀬雪乃に一度話を聞く場を設けるとするかの。」
ウサギの面が提案をした。
「…何の確証もないのに尋問でもされる気ですか?」
ネロはウサギの面を睨み付けた。
「こら、碧川ネロ。あなたは自分の立場を理解しているのか?あなたに反論する権利はない。」
モグラの面が言うと、ネロは口を噤んだ。
「では、次は白波瀬雪乃を会合に召喚することとする。よいかな。」
トラの面がミサカ全員に問い掛けると、キツネの面意外が頷いた。
「…『火』は何か不満があるのか?」
ウサギが問い掛けた。
「いえ、特には。この会合は全て多数決で決まる掟ですから、不満などはありません。この会合で出された結論は私自身のそれに等しい。」
「…素晴らしい。」
ネコの面がぼそりと呟いた。
「碧川ネロ、お主は特例班の班員を守る義務があることを忘れるでないぞ。犠牲者は曽我谷津楓で終いじゃ。」
「2年前のような悲劇にならぬようにな。」
トラの面とサルの面が言うと、ネロは「心得ています。」と頭を下げた。
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