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メッセージ通り北棟の目の前まで歩いてきた雪乃は、北棟の入口前で考え込んでいた。その理由は、見た目は正面入口のような造りだが、そこに扉のような物が一切無かったからだ。
雪乃はとりあえず、部屋のドアと同じように本来ドアがありそうな壁部分に右手を当ててみたが一切反応は無かった。
「うーん…。」
「あら、あなたどうしたの?」
壁を見つめて悩んでいた雪乃の背後から声がして振り向くと、モデルのような高身長、茶色の綺麗な長髪の女性がいた。
「もしかして特例班に入る1年生かしら?」
「は、はい。白波瀬雪乃と申します。」
「あらあら、可愛いらしい子ね。私は向澤いおり、特例班の班長をしてます。よろしくね。」
「は、班長さん…偉い方だ。」
雪乃は少し緊張した。
「偉いって、そんなことないわよ。班長ってのは学園のルール上必要なだけで、私は穴埋めで班長って肩書きがあるだけよ。…白波瀬さん、ここに来たってことは招集されたのかしら?」
「はい。」
雪乃はスピを取り出して見せた。
「じゃあ今日は見学かしらね。とにかく中に急ぎましょう。」
「あの、この建物は一体どこから入るのですか?」
「碧川先生、何も教えずに招集だけしたのですね。先生はそういうところがあるのよ、ごめんなさいね。北棟に入るにはスピを使うのよ。このアプリを起動するの。」
いおりはスピの画面を見せながら説明した。いおりは鍵のマークのアプリを起動し、スピをさっき雪乃が右手を当てた壁に翳した。
すると、ゴゴゴゴという音とともに、ドア1枚分の壁が地面に沈み、そこに入口が出来た。
「このスピは学生では特例班にしか与えられていなくて、北棟は特例班以外の学生は入ることを禁じられているの。さぁ、行きましょ。」
雪乃はいおりに続いて北棟の中に入った。雪乃が入ったことを確認すると、いおりは再びスピを操作して地面に沈んだ壁を元に戻した。
北棟の中、エントランスは重厚感のある造りだった。石造りの壁に床は赤い絨毯が敷かれ、上を見ると天井は遥か上にあった。エントランスの中央には螺旋階段があり、ずっと上の天井まで伸びていた。雪乃はその光景に口をあんぐり開けて魅入ってしまったが、いおりに呼ばれて我に返った。
「北棟の案内は今度いたしますので、今は特例班の活動所に行きましょ。」
いおりはエントランスの隅のラックに縦に並べてあったフライングサークルを手に取り、雪乃に渡した。雪乃は慣れた手付きで起動させフライングサークルに飛び乗った。
「あなたやりますわね。もうフライングサークル乗りこなしてるなんて。」
「いえ、寮に行くまでに一回乗っただけで…。」
「ご謙遜を。でも、このフライングサークルは上下つまり垂直特化型ですの。個人用エレベーターだと思ってください。」
いおりはそう言うと、フライングサークルに飛び乗りゆっくりと上昇させた。
「活動所は15階です。白波瀬さんもご一緒に、さぁ。」
雪乃はさっきの感覚を思い出し、頭の中で上昇をイメージした。ゆっくりと上昇を始めると、いおりはニコッと笑った。
ー 特例班活動部屋 ー
「ミドリっち、久しぶりの活動じゃん。」
「そうね、1週間ぶりってとこね。先生、今日は私と楓だけ?」
「いや、あと3人来るからもう少し待ってくれ。班長と寒川、それに新人が来る。」
「新人って雪乃っちのことか?」
楓が立ち上がりながら質問した。
「あぁ。」
「何よ楓、あなたその新人に会ったの?」
「花畑、僕がスピを渡すように曽我谷津に頼んだんだよ。」
ガチャ。3人が会話していると扉が開き、いおりと雪乃が順番に部屋に入ってきた。
「班長、遅いよぉ。」
楓が言った。
「ごめんなさい。下で白波瀬さんに会って色々解説してたら時間経ってしまって。碧川先生、白波瀬さんに北棟の入り方教えてなかったのでは?」
「…あ、すまん。班長、ありがとう。とりあえず席に座ってくれ。寒川は少し遅れると連絡があったから先に始めよう。」
いおりが席につくと、雪乃も案内されるまま席についた。雪乃たちが座る椅子も大きなテーブルも豪華な装飾が施された見るからに高そうな物で、部屋全体も暖炉があったり、大きなソファやモニターが設置されていたりと、その豪華なつくりに雪乃はキョロキョロと落ち着かない様子で部屋を見回していた。
「雪乃、大丈夫か?」
「あ、はい、すみません。」
「あら、碧川先生。白波瀬さんは下の名前で呼ぶのですね。」
いおりの突っ込みに楓はニヤッと笑みを浮かべた。
「言われて気付いたな、別に深い意味はないよ。で、花畑は雪乃と初めてだな。」
ネロは自己紹介するように促した。
「花畑伽藍、3年生。この特例班は仲良しこよしの班じゃないから、私はそこまであなたと仲良くしようと思ってないから。名前は白波瀬雪乃ね、自己紹介はしなくて結構。」
伽藍はそう言い切って座った。雪乃は、伽藍から感じた圧でポカンとしてしまった。
「ちょ、ちょっと花畑さん、いきなりそんな言い方したら…。」
いおりが弱々しく言った。
「だって仲良しこよしでやってく活動じゃないでしょ、遊びじゃないんだから。油断してると簡単に死ぬんだから。」
花畑は冷たい口調で言い返した。
「伽藍っち、きっつー!」
「…白波瀬さん、ごめんなさいね、いきなり驚かすようなこと言って。」
いおりが隣の雪乃を見ると、雪乃は顔を真っ青にしていた。
「…死ぬってどういうことですか?」
雪乃はネロの顔を見ながら質問した。
「花畑の言う事は基本間違ってはいない。だけど、花畑、仲良くしておかなきゃ連携が出来ないだろ。活動に連携は必須だ。」
「私は1人で出来るから。そんなことより、早く今日の話をしてください。今日は何体なの?」
「…ったく。まぁとりあえず先に話だけするか。今日のゴーストは8体だ。」
…え、ゴースト?
雪乃は首を傾げた。
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