第1話『インフィニティ・ハイスクールへようこそ』

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「8体?楽勝じゃない。」 「ぼくと伽藍っちだけでイケそうじゃん!」 「私一人で十分よ。班長は相方がいないと戦えないものね。相方はいつまで来ないわけ?」 伽藍といおりは同じ三年生だが、伽藍にとっては楓のほうが仲が良い。伽藍は背は小さめだが、赤髪のセミロングが特徴の勝気な性格の持ち主だ。 「…寒川さんはもうすぐ来ます。」 いおりは弱々しく呟いた。 「ふん。で、先生、方角は?」 「センシアの西側の森だ。ここは前にも行ったことがあるから何となくは分かるだろ?」 「勿の論よ!新人、しっかり見ときなさい。」 「花畑、ちょっと待ってくれ。8体という数よりも中身が問題なんじゃないのか?」 ネロがため息をつきながら言うと、それを見た伽藍は馬鹿にされたように感じてムッとした。 「と、とりあえず、まずは碧川先生の話を聞きましょう。」 「班長すまない。では、改めて本日のゴースト討伐作戦会議を始める。」 「…ゴースト…討伐…?」 雪乃は、まるでゲームや漫画の世界の話ではないか、でもネロをはじめ皆の表情が真剣なのはわかる、けど…と頭の中は混乱していた。 「…ねぇ、先生、新人って特例班の活動何にも知らないの?」 雪乃の表情を見た伽藍が言った。 「言葉より実践だろ。口で言ったって信じない可能性がある、だから直接見せるべきって話だ。雪乃、今から話すことは現実だから、そのつもりで聞いてくれ。」 「は、はい。…わかりました。」 わかったと言いつつ、頭の何処かではまだ信じていない自分がいることを雪乃はわかっていた。 ネロはモニターのスイッチを入れ、ポインターでモニターを指しながら説明を始めた。 「いいか、センシアの西側の森は入口と奥では別世界だ。今回の8体のゴーストの厄介なところは、纏まってないということ。おそらく入口と奥側に分かれている。基本単独行動は禁止のため、花畑と曽我谷津ペアと班長と寒川ペアに分かれて行動をしてもらう。8体とも恐らくシルバークラスだ。」 「8体ともシルバーか。楓、1週間ぶりだから身体鈍ってない?」 「ぼくは毎日力使ってるからモーマンタイだよ!」 「シルバー8体は一斉に襲ってきたら脅威になりますね。」 「あれ、班長ビビってるの?だったら来なくていいよ、足手まといになるだけだから。」 「花畑、いい加減にしろ!作戦はさっき伝えた通りだ。時間は深夜1時に寮の前に集合だ、いいな。」 「ふん、わかったわよ。」 伽藍は不機嫌そうに部屋から出ていった。ネロといおりは同時に頭を抱えた。 「ニャハハハ、ミドリっちと班長は伽藍っちが苦手か?」 楓がテーブルに置かれたスナック菓子の袋に手を伸ばしながら言った。 「別に苦手なわけではないわよ、大切な『戦力』ですもの。私が班長として不甲斐ないだけです。碧川先生、寒川さんには私から伝えておきますわ。」 「あぁ、寒川は大丈夫なのか?」 「いつものメンテナンスかと。本番に備えないといけないですから。では、私も失礼します。白波瀬さん、いきなり恥ずかしいところ見せてしまいましたわね。」 「い、いえ、そんな。班長とか人の上に立つのって大変なんだなと思いました。」 「私は上になんかなってないわ。班長というのは学園ルールに則って付けられただけよ。ではまた集合時間に。」 いおりはネロにお辞儀をして部屋から出ていった。楓は一袋を食べ終わろうとしており、袋を逆さにしてカスを口に運んでいた。 「雪乃、大丈夫か?」 ネロが雪乃の対面の椅子に腰掛けた。雪乃はコクンと頷いた。 「…正直、私はまださっきの会話の中身を信じ切れてはいないです。それに…。」 「それに?」 「仮にゴースト討伐ってことは、幽霊とかそういうことですよね。何でネロさんは私を特例班にスカウトしたのか…そっちの方がわからなくて。」 「ニャハハハ。」 楓が食べ終えた袋をグチャグチャに丸めながら笑った。雪乃は何故楓が笑ったのかと楓の顔を見つめた。 「そんなの雪乃っちが白波瀬一族だからに決まってんじゃん。ね、ミドリっち。」 「私が白波瀬家の人間だから?…ネロさん、どういうことですか。」 「…すまない、ちょっと学長と約束があって時間がないんだ。その話はまたにしよう。さ、一旦帰って仮眠をとってから集合だ。曽我谷津、寮まで雪乃と一緒に帰ってやってくれ。」 「りょ!でもさ、このお菓子食べてからね。」 ー 雪乃の部屋 ー 結局、あの後は楓のマイフライングサークル改(2人乗りタイプ)に乗せられ、楓の荒い動きにバランスを取ることで疲れ果てた雪乃は、白波瀬家の話を楓に聞くことができずに今に至っている。時刻は6時半を回ったところだ。 「…あ、お腹空いたままだ。」 雪乃はご飯を食べられる場所を聞くために再びヤナギに電話を掛けた。用件を伝えると「ヒャヒャヒャヒャ」という笑い声で一方的に電話を切られたが、その数秒後に部屋のインターホンが鳴った。 雪乃はまさかと思いつつ、ドアをゆっくり開けるとカレーライスとサラダが乗ったお盆を持ったヤナギが立っていた。 「ほれ、喰いなさい。今日はこれから活動があるんだろ?ほんとはいくつも食堂とかが敷地内にあるんだがな、今日はさっさと喰って寝るに限る。飯食う場所は明日教えてやる。」 雪乃は「ありがとうございます。」とお盆を受け取ると、ヤナギはニヤリと笑ってドアを閉めた。 「はぁ、ヤナギさん凄いな、ほんと。」 雪乃の大好物はカレーライス。流石に偶然だろうと思いながらペコペコのお腹にかきこんだ。 「私が一番好きなカレーだなぁ。」 満腹になった雪乃は口についたカレーをティッシュで拭き取ると、そのままソファに倒れ込んだ。
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