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ー 寮の前 ー
時刻は深夜0時55分。集合時間の5分前だが、既に集合場所にいるのは、いおりと寒川千里とネロの3人だ。
「寒川、打ち合わせに来なかったが体調が悪いわけじゃないんだよな?」
ネロの質問に千里は頷いた。
「はい、大丈夫です。いつもの『目』のメンテナンスなんで。話はいおりから聞きました。シルバークラス8体だと少し時間掛かるかもしれませんね。形状が似ているモノならいいんですが。」
「寒川さんの目があれば問題ないわよ。」
「ふん、相変わらずあんたらは2人で1人!半人前ってことじゃん!」
伽藍が寮の入口とは反対方向から悪態つきながらやって来た。伽藍の姿を見た千里はいおりの後ろに隠れた。
「花畑、お前その言い方いい加減やめろ。チームが乱れるだろ。チームを乱す者は能力が高くても外しざるを得なくなるぞ。指導者としての命令と助言だ、いいな!」
ネロがキツめに言うと、伽藍はそっぽを向いて大人しくなった。
「ったく。で、あとは曽我谷津と雪乃か。」
"ピコーン!電話だよ!"
ネロのスピが鳴り出し、ネロはスピを取り出した。
「…雪乃?…はい、私だ。…え、曽我谷津が、またか。あ、いや、いつものことなんだ。今から迎えに行かせるよ。」
ネロは電話を切って、いおりの顔を見た。
「…曽我谷津さん、またですか?」
「あぁ、そうみたいだ。悪いが迎えに行ってやってくれ。」
ー 3分前。
雪乃は集合時間に合わせて部屋から出ようと玄関のドアを開けた。すると、何かに引っ掛かって最後まで開かなかったため、隙間から顔を覗かせて外を見た。
「…ん!?」
そこには通路でうつ伏せで倒れている楓の姿があった。
「ちょ、ちょっと楓さん!?だ、大丈夫ですか!?」
雪乃が声を掛けても楓はうんともすんとも言わなかった。慌てた雪乃は、スピでネロに電話をし、間もなくしていおりが救援に駆け付けた。
いおりは、倒れている楓を引っ張って少し移動させた。ドアが開くようになったため雪乃は通路に出ることができた。
「ありがとうございます。あの、楓さんは一体…。」
「エネルギー切れってことよ。」
「エネルギー切れ?」
「彼女の能力は人一倍エネルギーを使うのよ。ただでさえ、誰よりもパワフルに動く子だしね。いつもお菓子食べてエネルギー補充してるようなんだけど、いつも本番の前に能力使って疲れちゃうのよ。」
「何で本番前に能力を使うんですか?」
「心配みたいなの。本番で上手く使えるかって。こう見えてとっても真面目な子なのよ、曽我谷津さんは。少し休んで食べ物あげれば復活するはずよ、とにかく行きましょう。」
いおりは楓をお姫様抱っこで持ち上げた。
「いおりさん…班長、凄い力持ちですね。」
「班員の面倒見るのは班長の責務ですから。」
いおりは急いでネロたちの元に向かった。
雪乃たちが寮の前に着くと、伽藍とネロが白い粉を撒いて地面に何かを描いていた。雪乃たちに気が付いたネロが一旦手を止めた。
「班長すまなかったな。俺の鞄に曽我谷津の好物の甘食が入ってるから食べさせてやってくれ。」
「ネロさん、これは何をしてるんですか?」
「空間移動の霊呼陣だ。」
「霊呼陣?」
「あぁ、霊にも個々にあらゆる特徴があってね、今描いている文様は空間移動を可能にする霊を呼び出すものだ。これを使って西側の森『真紅の森』に移動する。」
「…ほんとにそんなことが…凄いです。」
「ふん、まぁ素人は霊呼陣なんてやっちゃ駄目よ。霊呼陣の文様には数え切れないくらいの種類があって、間違えてゴッドクラスの霊を呼び出したりしたらこのセンシアの街が終わるから。」
伽藍が作業をしながら冷たい口調で言った。
「確かに霊呼陣はそんなに簡単なものじゃない。文様を描くのに使用しているこの白い粉は、動物の骨で、これを手に入れることがまず難しいんだ。…花畑!そっちはどうだ?」
「もう終わるわ。」
花畑は本を見ながら文様を描く手伝いをしており、文様を描き終わると本を閉じた。
その様子を見ていた雪乃の肩を背後からポンポンと千里が叩いた。
「あなた、新1年生?私は寒川千里、2年生よ。よろしくね。」
「私、白波瀬雪乃です。よろしくお願いします。」
千里は髪の色が青く、ポニーテールをしていて、優しい声が印象的だと雪乃は第一印象で思った。
「白波瀬…あなたにも除霊師の力宿ってるの?」
「…え?除霊?あ、あの、私あまり自分の一族のこと知らなくて、その…」
「おーい、準備出来たぞ!みんな霊呼陣の上に乗れ!」
ネロの呼び掛けに千里は先に行ってしまい、その先を聞くことができず、雪乃はモヤモヤした。
甘食を食べて何とか動けるようになった楓を含めて全員が霊呼陣の上に乗ると、ネロが文様の真ん中に立ち目を閉じて手を合わせた。
「…この世に縛られし八百人の魂よ。僅時に限り、我に己の御力を授け給え。縛・解・開・授・魂・力・浄…はっ!!」
ネロが合わせていた手を地面の文様に向かって翳すと、文様部分が青白く発光を始めた。
「…な、何が起こるんですか?」
初見の人間が受け入れられる訳もなく、雪乃は恐怖を感じ、近くにいたいおりのシャツの裾をギュッと握った。
その3秒後、地面から上に向かって激しい光が放たれ、雪乃の視界は光に包まれた。
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