第1話『インフィニティ・ハイスクールへようこそ』

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…うーん、あれ? 雪乃は気を失っていたようで、目を覚ますとゆっくり瞳を開けた。 …え? 視界に飛び込んできたのは、地面に倒れている血塗れのいおりと伽藍の姿だった。伽藍は意識を失っており、いおりは苦悶の表情を浮かべていた。 …一体何が起きてるの? よく見ると伽藍は左腕を失っており、いおりも足を押さえていた。 班長!花畑さん! 雪乃は立ち上がってとりあえず助けに向かった。 白波瀬さん!来ちゃだめ!! いおりが大声で警告した。 一体何が…っ!? 次の瞬間、巨大な半透明の手が雪乃の視界の前を通り、そのまま苦しんでいるいおりの身体を掴み持ち上げた。 班長!…ネロさん…ネロさんは!? 辺りを見回しても他の人の姿は無かった。 このままじゃ班長も花畑さんも死んじゃう。 雪乃は自分に何が出来るかなんて考えることはせず、我武者羅にいおりの元に向かい、巨大なその手を掴んでいおりから離そうとした。 あれ!?何でよ! 雪乃がいくら触れようとしても、その手には触れることが出来ず通り抜けてしまった。 …白波瀬さん…逃げて… 虫の息のいおりが言った。 班長、駄目!死なないで! 雪乃がしつこくその手に触れようとしていると背後からもう一本の手が現れた雪乃も捕らわれてしまった。 キャーッ!は、離して! 雪乃を掴んだその手は徐々に雪乃を締め付け始めた。 …く、苦しい…。 更に力が増すと、自分のどこかの骨が砕ける音が聞こえ、声にならない苦痛が襲いかかってきた。意識も徐々に遠ざかっていく。雪乃は、そのまま意識を失う前に一瞬地面が視界に入り、そこにはさっきまでいなかったネロがこちらを見て立っているのがわかった。 …ネ、ネロさ…助け…て…。 雪乃が最後に見たのは、怪しげな笑みを浮かべ、じっとこちらを見ていたネロの姿だった。 …もう駄目…。 「…の、…きの!…ゆきの!…雪乃!!」 「…っ!?」 雪乃はハッと意識を取り戻した。 「大丈夫か?物凄く魘されていたぞ。」 ネロの顔が視界に入ると、雪乃は思わず尻もちをついたまま後退した。 「…な、何だよ。」 「え、あ、いえ…。」 雪乃は気を失って夢を見ていたことに気が付いた。全身に嫌な汗をかいていた。 「時空間酔いだ。僕たちは霊呼陣で呼び出した霊の力でこの『真紅の森』に一瞬で移動したんだ。初めての時空間移動だ、酔ってしまったんだろ。」 「時空間移動…。」 雪乃はゆっくり立ち上がって辺りを見回した。振り返ると目の前には深い森の入口があった。 「他の連中はすでにゴースト討伐に向かっている。」 「ネロさんは行かなくていいんですか?」 「残念ながら僕は霊に攻撃する(すべ)を持ち合わせてはいないんだ。雪乃の身体が大丈夫なら、特例班の活動を見に一緒に森に行くぞ。」 雪乃はさっきのが夢だとわかりながらも、いおりと伽藍の身が心配で仕方なかったため、頷いて森の中へと急いだ。 「あ、雪乃!待て!」 ネロは走り出した雪乃を制止したが、雪乃の耳には届いていなかった。 雪乃は街灯など無い森に入り、道なき道を進んだ。幸いにも今日は月明かりが照っており、木々の間から降り注ぐ天然の灯りでぼんやりと行き先を確認することはできた。 「…花畑さぁん!班長!」 雪乃が大きな声を出した瞬間、全身に悪寒が走った。 …後ろ? 気配を感じ振り向いた瞬間、ネロが雪乃の元に何かを唱えながら駆け付け、雪乃の盾になって何かを弾き返した。 「…ネロさん。」 「馬鹿野郎、勝手に行きやがって。僕は攻撃を防ぐことは出来ても、相手を攻撃する術は無いんだ。」 「…相手って。」 雪乃はネロの背中から顔を覗かせ、ネロが弾き返したモノの正体を確認した。 「…ネロさん、あれは?」 「あれがゴーストだ。」 そこには真っ白な人型の何かがいた。真っ白と言っても少し透けているようで、その物体の周りの空間も歪んでいるような感じがした。ユラユラと揺れているその物体は見ているだけで気分が悪くなるものだった。 「ちっ、シルバークラスか。さぁどうするか。」 ネロはゴーストを見ながら強がるようにニヤリと笑った。 「ネロさん、戦うんですか?」 「生憎、僕は負け戦はしない主義でね。」 次の瞬間、下を向いていたゴーストが急に顔を上げた。その顔はまるで溶けかかっているように上下に歪んでおり、苦悶の表情のようにも見えた。 「ネ、ネロさん!ど、どうするんですか?」 「…大丈夫。いいか、僕がよーいドンと言ったら全力で後ろに向かって走れ。」 「…え?」 「いくぞ、よーい…ドン!!」 雪乃はとにかく我武者羅に走り出した。 「ゔぉおおおおおおおおおおおおお!」 低い声で猛獣が唸っているような声が背後から聞こえ、その気配が迫っている感覚に襲われていた。 「雪乃!前だけ見ろ!絶対に足を止めるな!」 雪乃は背後でネロがゴーストを防いでいることを感じながら必死に走り続けた。 「…えっ!?」 急に鬱蒼とした森を抜けてしまい、目の前には崖の壁が現れ、行き場を失ってしまった。雪乃は壁まで走り、震えながらゴーストの方に振り向いた。 「ぐわぁぁぁ!」 その瞬間、ネロがこちらに吹っ飛んできて壁に叩きつけられた。 「ネ、ネロさん!?大丈夫ですか!?」 地面に倒れたネロを揺さぶるも一切反応が無かった。 「ゔぉおおおおおおおおおおおおお…。」 雪乃は立ち上がり、数メートル先からこちらを見ているゴーストを震えながら見つめた。
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