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「ゔぉおおおおおおおおおおおおお!!」
ゴーストは何の予兆も無く雪乃に襲いかかってきた。
「キャー!」
雪乃が咄嗟に避けると、ゴーストはそのまま壁の中に突進していった。
「…はぁ…はぁ…。…また来る。」
ゴーストは壁をすり抜けるように戻ってきて、壁から悍ましい表情の顔をだけを出して、雪乃をギロリと見た。左右で大きく上下にズレたそのチグハグな目は寒気がすることほど不気味で、雪乃は凝視することができなかった。
「ゔぉおおおおおおおおおおっ!!」
ゴーストが叫びながら壁から飛び出した。成す術の無い雪乃は死を覚悟して目を閉じた。
…あれ?
すぐに来ると思った衝撃が来ない。雪乃がゆっくりと目を開けると、顔から数センチ先にゴーストの手があり、その手は雪乃の首を掴もうとしていた。驚いて尻もちをついた雪乃は、ゴーストの異変に気が付いた。ゴーストはその体勢のまま固まっていたのだ。
「…はぁ…はぁ…ど、どういうこと?」
「雪乃っち!大丈夫か?」
「残りの一体見当たらないと思ったら、あんたが惹き付けてたのか、邪魔はしないでよね!」
雪乃の前に伽藍と楓が姿を現した。
「花畑さんと楓さん…。」
雪乃は安堵の表情とともに涙を浮かべた。
「あぁ、泣くなってば!泣く子って嫌いなの。…けどさ、先生はほんとに弱いな。」
伽藍は気絶しているネロを睨み付けた。
「伽藍っち、こいつどうするの?ぼくがとどめを刺しちゃっていい?」
「3体は私がやったから、最後のは楓に譲るわ。フリーズさせたのも楓だしね。」
「ヒャッホー!じゃあいっちゃいまーす!」
楓は左手で右手の手首を握り、右の掌をゴーストに向けると、掌から火の玉を繰り出した。
「あわわわわわ…。」
訳のわらない光景とその火の玉の熱さに雪乃はお尻を引き摺りながら後退した。楓はしばらく掌でエネルギーを溜め込み、火の玉を大きくした。
「こんくらいかな。せーの、バキューン!!」
勢いよく放たれた火の玉は、固まったゴーストを一瞬で飲み込むとそのまま崖の壁にめり込んだ。辺りには焦げ臭い匂いが漂い、ゴーストはチリ1つ残らず姿を消した。
「…楓、あんた加減を知りなさいよ。」
「久しぶりだったから、つい。」
「これで私たちのノルマは終わり。半人前コンビはどうかしら。」
伽藍がそう言って振り返ると、いおりと千里が立っていた。
「…こっちはもう終わってます。」
いおりが伽藍の顔を見ながら言った。
「ふん、シルバークラスごとき当たり前よ。」
「白波瀬さん、大丈夫?」
千里が遠くに座っていた雪乃を気にして声を掛けた。
…これが特例班の活動なの?楓さんの攻撃しか見てないけど、ほかの人たちもあんなこと出来るの?私には出来ない。なんで、ネロさんは私を特例班に誘ったのよ。
雪乃は頭がいっぱいで、千里と声は届いていなかった。千里は心配になり雪乃の元に駆け寄った。
「白波瀬さん。」
「ったく、こんなんでビビってたら、何の役にも立たないじゃない!」
いおりと伽藍も千里を追って、雪乃の元に向かった。千里に気付いた雪乃は我に返り千里の顔を見上げた。
「あなた、霊とは対峙したことないの?」
「…霊なんて見たこと無かったです。」
雪乃は小声で答えた。
「寒川さん、白波瀬さんはいきなりゴーストに襲われたのだからトラウマになるのも理解できるわ。」
「ったく、情けないわね。ここであんたを待つ時間も勿体ないわ。」
伽藍はそう言って雪乃の腕を掴むと立たせようと引き上げた。それを見たいおりも反対側の腕を自分の肩に掛けて雪乃の身体を持ち上げた。
「とりあえず戻りましょう。寒川さんは碧川先生を起こしてくださる?」
千里が頷いて振り返ると、楓がこちらに向かって走ってきた。
「ニャハハハ、久しぶりの一撃で何だか興奮しちゃったよ。」
「楓、あんまり騒ぐとまたエネルギー切れ起こすよ。」
「伽藍っち、大丈夫、大丈…ぐふぇっ!?」
「えっ!?」
4人は楓を見て固まった。
楓の背後からゴーストの手が胸を貫いたのだ。楓は口から血を吐き、ゴーストが手を引き抜くと、楓は力なく地面に倒れた。
「…か、楓…楓ぇぇえー!!」
伽藍は雪乃から手を離し、楓の元に駆け寄った。
「花畑さん!駄目よ、落ち着いて!」
いおりが制止するも、我を失った伽藍は楓に一直線に向かった。
「ゔぉおおおおおおおおおおおおお!」
空気が歪むほどの低い唸り声を上げたゴーストは、向かってくる伽藍にロックオンをし、瞬発的に襲いかかった。
「なめないでよ!!」
伽藍はゴーストの一撃を横に跳びはねて避けると、「縛!」と叫びながら両手の指を何かの文字のように形作った。その瞬間指の先から紐状の光が飛び出し、光はゴーストの周りを高速で回り縛り上げていった。
「楓の敵、討たせてもらうから!…滅!!」
伽藍が両手をさっきとは異なる形にすると、紐状だった光はゴースト全体を包み、ゴーストを圧し潰すように徐々に小さくなっていく。
「死ねぇ!!」
だが次の瞬間、光は弾け飛びゴーストは再び姿を現した。
「…嘘…ぐっ!!」
油断した伽藍の一瞬の隙をつき、ゴーストは右手だけを瞬時に伸ばし、槍で突くように伽藍の右肩を突き刺した。伽藍が無意識で身体を反らしたため、急所を避けることが出来たのだ。
「白波瀬さん、ごめんなさい。」
いおりはそう言って雪乃から手を離した。
「寒川さん!お願い!」
いおりの言葉で、千里はゴーストを見つめた。その瞬間、千里の両目は白目が無くなり漆黒のごとく黒目だけの瞳に変わった。
その間、いおりはゴーストに向かって走り出していた。
「班長!右上35!」
千里の言葉に、いおりは「了解です!」と答えると、スカートの両側のポケットから拳銃型の武器を取出し、2丁の引き金をほぼ同時に引いた。2丁から放たれた弾丸は微妙なズレでゴーストの身体の同じ箇所を撃ち抜いた。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ゴーストは地面を揺らすほどの苦しそうな声を上げた。
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