夏の終わりを告げる太陽で焼かれる処刑を受ける悪役令嬢は、終わる前に語った

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 ねぇ、そこの貴男。聞いてくださいまし。  そうよ、貴男。私を今から処刑台へ連れていく騎士さん、貴男よ。返事はしてくれないのは百も承知よ。ただ聞いていてくれればいいの。王子が私の罪状を事細かく演説している少しの時間にその耳を私のために傾けてほしいだけなの。だって、私は今から炎に焼かれてしまうんですもの。いくら罪が重いとはいえ、生きたまま夏の太陽の火で焼かれるだなんて、ひどいものよね。夏と一緒に私を終わらすとは思わないじゃない。しかも、今回は見せしめのために私だけなのでしょう?なら、終わる前に少しぐらい話をさせて欲しいと思うじゃない。  ……無言、ということは聞いてくれると判断いたしますわね。  私、あそこで声高に演説しているアスカ王子を愛していたのよ。  最初は家柄による婚約者という関係だったけれど、幼い頃に一目見て美しい金色の髪と青い瞳に惹かれたの。私が一目惚れして彼と一生を過ごすことを楽しみに色んな妄想を膨らませている間に、アスカ様が私のことを心底嫌悪しているなんて知らずにね。  私、何も知らなかったのよ。  てっきり、彼には私だけだと思ってたの。だって、お父様もお母様も、親戚の誰もが『婚約者はルアンヌだけだから堂々としていればいい』と口を揃えておっしゃるんですもの。幼いころから言われてきた私が、それが偽りだったなんてわかるわけがないとは思いません?まさか、私はただの邪魔者で、アスカ様にとっては今横に寄り添っているジュリーこそがアスカ様の愛する人だなんて知る由なんてどこにもありませんでしたのよ。だから私は、アスカ様に親し気に話しかけて、密着しようとするジュリー様は婚約者を奪おうとする不届きものとしか思えませんでしたの。  故に、容赦なんて言葉は頭になかったわ。  私がアスカ様とお茶をしようとピクニック道具を持ってきたら同じものを持ってアスカ様に近づくから、ジュリーの腕ごとカゴを焼いたの。  私がアスカ様とデートするために図書館に呼んだのに先にジュリーが二人きりになろうとするから、図書館に入ろうとするジュリーを傍の窓から風で吹き飛ばしたの。  パーティでは私が一番にダンスを踊りたかったのにジュリーが勝手にアスカ様の手を取ったから、その手を見せしめとして柱に縛り付けたの。  腕を焼いた時はちょっとの火傷でしたし、風で吹き飛ばした時は1階からですから庭の木の枝がこすれた傷がついた程度でした。大したことがないのにこんな罪に問われるなんて、可笑しいですわ。まぁ、手だけを柱に縛り付けたのはやりすぎだったかもしれませんが、ちゃんともう片方は残しておいたのよ。後でくっつけることができたのだから、別に大したことじゃなかったはずよ。  ――さぁて、ここまで聞いてくださったことにお礼を申しわげるわ。  だってそのおかげで貴男は私の虜になっていますもの。ああ、フフ、もうこの言葉の意味も分からない程の人形になってしまわれたのね。ごめんなさいね。ちょっと、魔力を垂れ流しすぎたかしら。心を動かしてもらえなかったら私の言霊魔法は効かなかったのですが、どうやらとっても心を動かしてくださったのね。それは同情か、哀れみか、それとも私への畏怖か……まぁ、どれでもいいわ。あら、震えてるじゃない。無意識かしら。それとも私の言霊が効きすぎて血液がちゃんと作用していないのかしら?確かに副作用で冷えることはあるものね。結構本気で頑張ってしまったから、仕方ないわ。でも、安心して。すぐにその不安定な命は私と一緒に朽ち果てるから。さぁ、私の忠実な下僕さん。私のために、私が与えた魔力全てを使って、この場にいる全ての人を根絶やしにして頂戴。私はね、アスカ様もジュリーも侍女も家族も全て許さないの。  だって、私はただ愛されたかっただけなんだもの。愛しただけなんだもの。ただただ、愛ある男女の生活をしたかっただけなのだもの。それが当たり前だと、それが私にあるべき人生なのだと誰もが言ったのに、皆私の行いを否定して拒絶したんだもの。  だから、もうみんないなくなっちゃえばいいのよ  さぁ、いってらっしゃい。  私と一緒に、最後の夏の火に焼かれて終わりましょう。  増幅魔法が得意の騎士さん。  あの黄金の炎をどうするか、わかるわよね?  私だけ終わるなんて、許さないわ  fin
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