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天国発見
「雨の精は私に言ったわ。『神の世の安寧を捨て、辛苦の絶えぬ常世に戻るかどうかの判断はこの子に委ねよう』って。でもお前は優しい子だから自分が苦しむと分かっていても私の悲しみを引き受けに来る。それを知っていながらも、私はお前を呼び戻さずにはいられなかったの……ごめんね。」
レイはゆっくりと首を横に振った。
「俺にとっての天国は、神の世じゃない。母さん、俺は本当の天国を見つけたんだよ。」
「本当の天国?」
「そう。俺の愛する人達と俺を愛してくれる人たちがいるこのフロンティアこそが、俺の天国だったんだ!」
レイは、丘の麓を指さした。
そこではレイの妻が笑顔で手を振っている。
妻の大きく膨らんだ腹は、サワがこのフロンティアにやって来た頃を思い出させた。
時はめぐり人は変われど、世代は引き継がれ命は繋がっていく。
すっかり年老いたサワは隣に立つ息子の顔を見上げた。
夕日を浴びながら微笑むレイの顔は、祭壇で横たわっているときよりもひときわ輝いていた。
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