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雨の精
「レイ!」
祭殿に横たわるレイを見つけて、サワは大声でその名を呼んだ。
うっすらと水色に光るローブをまとった雨の精が、サワの前に立ちふさがった。
「レイ、迎えに来たのよ。目を覚まして!」
サワの叫びに雨の精が応えた。
「この子は雨の子。雨に感謝し祈りを捧げる。我はこの子の願いを聞き届けた。」
「待って、待ってください!!」
サワは必死になって雨の精にとりすがった。
「この子は私の子です。私がお腹を痛めて産んだ子です。どうか連れて行かないで!」
「この子は自分の命を差し出して『フロンティアを守りたい』と願った。その崇高な魂に我は応じた。」
「ならば私をこの子の代わりにお連れください!」
「ならぬ、これは神との契約。代理では務まらぬ。」
サワは雨の精のローブから手を離してひざまづいた。
「この子を救えるのなら何でも致します。この身を切り刻まれ魂を粉々に打ち砕かれでも構いません。どうか、どうかお聞き届けください!!」
サワの目から溢れる涙が祠の土を濡らした。
暗い祠の中に長い沈黙が流れた。
サァサァとかすかな雨音に紛れるような声がサワの耳に届いた。
「いいだろう。ならばこの身体は置いていこう。神の世の安寧を捨て、辛苦の絶えぬ常世に戻るかどうかの判断はこの子に委ねよう」
そういって雨の精は消えた。
土を払うのも忘れ、石造りの祭壇に残されたレイにサワは駆け寄る。
「レイ! レイ!!」
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