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子の成長
祭壇に横たわったまま静かな呼吸を繰り返すレイは、とても穏やかな表情をしていた。
その顔はこの世のありとあらゆる苦しみから解放され全ての重荷を下ろしたように見えた。
「レイ……」
サワはそっとレイの首筋に触れた。
トクントクンと指先に拍動が触れる。
「レイ!」
サワが何度呼んでも、レイは目を覚まさない。
サワの脳裏に雨の精の言葉がリフレインしていた。
『神の世の安寧を捨て、辛苦の絶えぬ常世に戻るかどうかの判断はこの子に委ねよう』
サワはまるで微笑んでいるようなレイの顔を見ながら呟いた。
「レイの魂は今、神の世にあるのね。飢えも渇きも戦争もない安寧の世界にいるのね。」
サワはレイの大きな手を取った。
「いつの間にこんなにも大きくなっていたんだろう。もう私の手よりも大きいじゃないの。」
サワはレイのクツを見た。
「アグリに貰ったときはブカブカでペンギンみたいな歩き方だって笑われていたのに……今ではぴったりじゃないの。」
閉じられたレイの目は開かない。サワは開拓のために鍬をふるいマメだらけになった手でレイの頬を撫でた。
「生きるのに精一杯で、私は目の前のお前を見ていなかった。お前の幸せを考える余裕もなかった。
今、神の世でお前は苦しみから開放され穏やかに過ごしているのかもしれないわね。」
サワの目から再び涙が溢れ出た。
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