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114.
「お客様、こちらの店員が業務上不愉快なことをされたのでしたら、申し訳ございません。ですが、第二の性程度で不愉快に思われているのでしたら、即刻お帰りになられるのをご提案します」
「お前⋯⋯っ、底辺なオメガの味方だという──」
「もちろん。⋯⋯第二の性程度で悪く言う底辺で愚かなやつよりオメガの方がだいぶマシだ」
愛賀がかつて苦手に思っていた三白眼の睨みが利いているようだ。青ざめ、顔を引きつらせていた。
店側としては、いくら苛立ってもそのような態度を取ってはならないが、俊我としてはいても立ってもいられなかった。
紹介してくれた友人に泥を塗ってしまうことになるが、辞めざるを得ないかもしれない。
騒ぎを聞きつけた店長が背後から、「どうしたの!」と言う声と、「興ざめだ!」と掴んでいた手を振り払い、立ち上がったのはほぼ同時だった。
「こんなクソみたいな店、二度と行くか!」
ありきたりな暴言を吐いて出て行った。
しんと静まり返る店内であったが、どこからかこそこそと話す声がやがて大きくなり、騒ぎになる前の喧騒が戻った。
「で、で? いきなりどうしたの?」
「オメガだのなんだのと差別するようなことを言ってましたので、俺がその客に注意しに行っただけです」
「いやぁ⋯⋯それは悪いことだけど、小野河君、ねぇ」
「いえ、小野河君は悪くないんです。元はといえば、私が配膳したせいで⋯⋯」
そんなことで、と言おうとした時、店長は言った。
「ひとまず二人とも裏に行こうか」
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