ヘドロゲーン最期の日(2019年8月30日)

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☆  それは、まさに呪い。 「オレが行こうか?」  自らの疳の虫に締め付けられる幽玄を見て、サダカは提案したが断られた。 「俺の仕事だ」 ※※※  八月も終わろうというのに、暑い日だった。  一会町立一会東三小学校。  そこの応接間で、青瀬学芸員は興味深くにノートを読んでいた。向かいに座る小学五年生の自由研究だ。『ヘドロゲーンの正体について』。 「すごい、こんなによく調べたね…」 「はい、最初はパパ…父の話からで、OBのおじいちゃんはヘドロゲーンを知らなかったので、父に年が近い人から聞いてまわりました」 『ヘドロゲーン』は、この学校の怪談の一つ。暑い日になると、6年3組の窓際一番後ろにヘドロゲーンという臭いお化けが出る、触れると臭いが移る、というものだ。今も窓際の後ろには座席を置かない。  槙野双葉という少女は、父の思い出話からこの怪談が出来るきっかけを突き止めた。20年ほど前に暑くて汗臭かった子供がそこに座っていて、ヘドロゲーンと渾名されたらしい、と。 「本当に、そう言われた子がいたんだ…」 「はい。でも、それが23年前という人もいたし、25年前という人も、21年前という人もいて、ハッキリしませんでした。その子が誰かもわかりません」  双葉は大人びた喋りを心掛けた。研究に自信があった。いじめ良くないというテーマもいい。きっと全国でも賞を取れる。その時のための練習だ。 「今年の自由研究クラス一位の作ですが、郷土資料館もご興味あるかと思いまして」  隣に座る若い担任の言葉に、実は彼の倍以上歳をとっている青瀬は子供のように頷いた。 「大変あります! ありがとうございます!」 「よかった。この怪談は今日で終わるかもしれません。いい記録になると思います」 「終わる⁈」 「実は…」  担任の顔が曇った。 「ヘドロゲーンの席の近くになったことでからかわれて、不登校になってしまった子がいましてね。その子のために、家族が霊能者を雇いまして、もうすぐこちらに来ます」 「え」  ノック。 「失礼します」  戸を開けたのは、青瀬がよく知る霊能者だったが、見たことないほどやつれていた。
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