荒沼のおじさんは

1/12
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
“夏も終わりかけまして、服屋さんに行きましても半袖のTシャツを見かけなくなって来ました。 おじさんは元気ですか? 僕は、あんまり元気じゃありません。 残暑お見舞い申し上げます。” ハガキの端っこに小さなスイカのシールと、かき氷のシールを貼って、“荒沼武”さんの宛名を書いた。 いくら、荒沼さんにハガキを送ろうとも、荒沼さんにはもう届かない。届く先は、荒沼さんの姉、荒沼喜恵子さんなのだ。 荒沼さんは、去年の夏の終わりに自宅で首吊り自殺をしたのだ。警察の言うには、遺体が発見された時にはすでに10日が経っていて。喜恵子さんは一緒に住んでいたのだけど、武さんとは、生活リズムが合わないから、何日も会わないなんてことはザラにあったことだった。 けれども。僕はポストにハガキを入れる。 届くはずのないハガキに返事が来るからだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!