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M 121
「サンキュ、2人とも。お言葉に甘えて何かあったらお願いするよ」
慎がオレの肩を抱き寄せて「な?」って顔を覗き込んでくる。
「あれ? また泣いちまってるし。ほんとかわいーな」
「うわ、こいつ早速ノロケてやがる」
「まあでも実際かわいーからな、たど…翠里は」
「あ、ちょっ、晃っ。なんでおれだけ呼んでくんねーの?!」
「お前うるせーもん」
「もぉ、晃ぁ」
「なぁにジャレてんのよ、そこの男子たち」
急に女の子に声をかけられて、4人でびくっとした。
「あ、間宮くんがまた田処くんのこと『俺の』ってしてるー」
窓辺に女の子たちが集まってくる。
「ははっ、だって俺のだからね」
わ…っ
両腕でぎゅっと抱きしめられてドキッとした。
女の子たちが「キャー」って盛り上がる。
「田処くんちっちゃいから間宮くんの腕の中にすっぽり入っちゃうねー」
「かわいー」
「ちょっと撮らせて」
え、え、
おろおろと周りを見回したら、絢一と晃が笑ってオレたちを見てた。
「『恋人ごっこ』楽しいな」
慎がオレの耳元でボソッと言った。
『恋人ごっこ』
「『ごっこ』じゃないけどな」
低い声で囁かれてドキドキしながら小さく頷いた。
4人だけは知ってる。『ごっこ』じゃなくて、ほんとに恋人なんだって。
「やだぁ、内緒話? ほっぺ赤いよ、田処くん。なんて言われたの?」
え? 赤い? やばい!
てかそんなの言えないっ
焦ってたら慎がオレを見下ろした。
「お、ほんとだ、かわい」
「しっ慎…っ」
みんないるのに…っ
「あはは、ほんとねー。可愛いよねー、田処くん。てゆっか言っちゃうんだね、間宮くん」
そ、そっか、みんなネタだと思ってるんだっけ
「うん。翠里が一番可愛いからね」
うわ…っ
だとしても、もう無理…っ
また周りから「キャー」って聞こえた。
オレは慎の腕の中でくるりと向きを変えて、広い胸に顔を伏せた。
心臓バクバクいってる…っ
慎の背中に腕を回してぎゅっとしがみつく。
「もぉっ、ちょっとごめんね? ジャマしちゃってっ。あたしたちあっち行くねっ」
「ごちそうさまー」
ザワザワが去っていく。
慎のおっきな手がオレの背中を撫でている。
「すげぇ追い払い方すんな、慎」
絢一の笑いを含んだ声。
「別に、そんなつもりはねぇけどな」
ふふって笑った慎がオレの頭を撫でた。
「いやぁ、でもおもろいわ、お前ら」
この声は晃。
「全部ほんとだけど嘘だって思われてる。なんか変な感じだな」
慎の潜めた声がちょっとだけ苦い。
「まあでも、おれらは解ってっからさ。それでいいじゃん?」
な?って絢一がオレを覗き込んできた。「うん」って頷いたら、絢一の後ろで晃が「うわ」って言った。
「いやマジで、かわいーわ、翠里。うん、可愛い。ちょっと今おれ、新しい扉開けそうになった」
絢一を押し退けて晃がオレに近付こうとして、慎がオレを抱き込んで晃に背を向けた。急に動いたからびっくりした。
「扉開けんのはお前の勝手だけど、翠里は俺んだからな」
割と真剣な声で慎が言ってる。
うれしい
えへへって思いながら、また慎の背中をぎゅっと抱きしめた。
「ほら、その手も可愛い。あー、おれも可愛い恋人作るぞー。なぁ、絢一」
「だなー、って、あ! おまっ、やっとおれのこと絢一って…っ」
絢一がぱぁっと顔を輝かせて晃に抱きついた。
「やめろ、お前可愛くないっ」
「えー、いいじゃんいいじゃん、ハグぐらいー」
絢一の腕の中で晃が暴れてる。
オレは、あったかい慎の腕に包まれてる。
見上げたら慎が微笑んでオレを見下ろしてた。
「慎はオレの、ね?」
絶対だよ、って思いながら訊く。
「もちろん」
そう応えた慎は、蕩けそうに甘い笑顔を浮かべていた。
了
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