S   52

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S   52

 リビングの明かりを落として、べったりとくっついたまま翠里の部屋まで歩いた。オレンジ色の常夜灯だけの明かりで翠里の肩を抱いて歩くと、自分が暴走してしまいそうで密かに深呼吸を繰り返す。  ドアを開けて部屋に入った翠里がパチッと照明を点けてホッとした。 「…ねぇ慎。あの…」  翠里がまた遠慮がちに俺を見上げている。相変わらず頬はほんのりピンク色で、さっきも噛んでいたせいか唇が赤い。  可愛いなぁ… 「なに? 翠里」  また翠里の身体に腕を回して、今度は顔を見て話せるぐらい緩めに抱いた。翠里は俺のTシャツの腰の辺りを握ってる。引っ張られる感じがめっちゃ可愛い。  翠里が俺を上目遣いで見つめてくる。 「…慎は、いつからオレのこと好き?…って訊いていい?」  うわ、何その可愛い訊き方 「いいよ、って言いたいとこだけど、いつからか俺も分かんねぇんだよなぁ。でもはっきり好きって思ったのは、中1の夏」 「え、すごい前じゃん」  翠里が大きい目をさらに大きくして俺を見た。 「そう、それとね、翠里が俺の初恋の人だから」 「あ…」  驚いた顔をした翠里の口角がじわじわ上がっていって、「えへへ」って笑ってまた俺をぎゅうぎゅう抱きしめてきた。 「えっと、あの…じゃあ、慎が好きになったのって、オレだけ…?」  俺にしっかり腕を回したまま翠里がちょっと照れくさそうに訊いてくる。 「うん。恋をしたのは翠里だけ」  俺だって恥ずかしいし照れくさいけど、きちんと伝えておきたい。  翠里が「うふふふ」って嬉しそうに笑いながら俺の胸に頬を擦り寄せた。 「今、慎がオレを好きでいてくれるの、すっごい嬉しいんだけど、その上初恋でオレだけ、とか…もう…っ」  信じらんないって言いながら、俺をぎゅうぎゅう抱きしめる。  俺だって信じられない。 「…翠里は? …俺は何番目?」  予想はついてるのに、その答えを翠里の口から聞きたくて訊いた。 「え、あ…あの、オレも…、慎が初めて…」  やっぱりな  恥ずかしそうに俺をチラッチラッと見て、つっかえつっかえ喋んのめっちゃ可愛い。 「…だから…オレも…、慎だけ…」  俺に抱きついた翠里の、伏せたまつ毛の影が頬に落ちている。  分かっててもめちゃくちゃ嬉しい。 「やっぱ運命だな、俺ら」 「…それ、ちょっと恥ずかしいよ、慎」    2人でくすくす笑いながらぎゅうぎゅう抱きしめ合った。 「ごめん。分かってんだけどさ、今浮かれてっから、俺」 「そうなの?」 「そりゃそうだろ。ずっと好きだったんだから、お前のこと」 「あ…、そっか…」    えへへと照れた笑いを浮かべた翠里が、次に「あれ?」って顔をした。 「ん? どうかした? 翠里」  サラサラの髪を梳いて、翠里の小さい顔を覗き込んだ。 「いやあの…、ほら、オレさ、雷の時とか慎に抱きついたり…してたじゃん?」  翠里が俺を上目にちらっと見る。 「うん、そうだね」 「あと…、今朝とかも…、寝てる時くっついちゃったり…。あれ…困らせてた、よね?」  腕の中の翠里が、眉を下げて申し訳なさそうに俺を見上げてくる。 「あー…、うん、まぁ…困るっつーか…、可愛くてキツかったけど…」 「…ごめんね? オレ、気付かなくて…」  翠里の細い手が俺の背中を撫でた。 「いや…、それは仕方ないし、謝んないで」  俺も翠里を抱いて、薄い肩を撫でる。 「…うん。でも、あの…、もうオレ、分かったから、さ…」  また俺の胸に頬を寄せて、少し視線を落として翠里が言う。 「ん?」  分かった、って…?
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