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Misato 1
「やっぱ慎とおんなじクラスがよかったぁー」
入学したばっかりの高校の、放課後の教室。自分のクラスじゃなくて隣の。
幼馴染みの間宮慎のクラスに来て、背の高い慎を見上げて抱きついた。
「どしたの、翠里。友達作るの得意だろ? お前」
抱きついたオレに驚くでもなく慎は大きな手でオレの背中を撫でた。
「そうだけどそうじゃなくて、慎とがよかったのー」
「ははっ、そっか。ありがと翠里。そうだな、おんなじがよかったよな」
よしよしって感じで背中をぽんぽんとたたかれて、慎の肩口に顔を埋めて、うんうんって頷いた。
「…あの…、えっと…」
すぐ近くから戸惑う女の子の声がした。
「あー、すんません、驚きましたよね?! こいつら昔っからこうなんで。あ、こいつ隣のクラスの田処翠里ね」
慎と同じクラスになった同小中出身の橋本絢一が勝手にオレを紹介してる。
まあいいけど。
「あ、じゃあ幼馴染みなんだ? そしたらさ、田処くん?も一緒にさ、遊び行こうよ。みんなで」
ねー、って3人ぐらいの女の子の声がして、慎に抱きついたままちらっとそっちを見た。
放課後に向けて、キチンとメイクしましたっていう顔をした、細身の女の子たち。
確か、昨日の入学式の後にも慎の近くにいた。
慎は男のオレから見ても格好いい、自慢の幼馴染みだ。
奥目で、眉がキリッとしてて、ちょっと外国の血が混ざってそうに見えるイケメンで、慎を取り囲む女の子は年々増えていってる。
「悪いけど、俺ら用事あるから。な、翠里」
「え…」
あったっけ? 用事なんて。
って思った時、耳元で慎がこそっと囁いた。
「…雷がくる」
びくっとしたら、慎がまたよしよしって背中を撫でてくれた。
雷は大っ嫌いだ。
小1の時、雨の中学童から1人で帰ってきて、大急ぎでカーテンを閉めてた時に特大の雷がすぐ近くのマンションの避雷針に落ちた。
すごい光と、音。
窓ガラスがビリビリッて震えてものすごく怖かった。
あの時から、雷がほんとに苦手になった。
できれば外では、慎と、家族以外の人のいる所では雷に遭いたくない。
ていうか雷なんてなくなっちゃえばいいのにって思ってる。
「…はやくかえろ」
慎にぎゅっと抱きついて耳元でこそっと告げると、慎がうんうんて頷いた。
「てことで俺ら帰るから」
慎はそう言って、オレを抱えたまま歩く勢いで進もうとしたから、慌てて腕を離した。そのまま慎にがっしりと肩を抱かれて教室を出ていく。
絢一の「オッケー!じゃーな」って声が聞こえた。
ちらっと窓の外を見たら、いつの間にか空には黒雲が広がってきていた。
「降るって言ってたっけ?今日」
「言ってなかったと思うけど、雲が見えてきたからさ。調べてみたら雷雲が来てるって出てたから」
階段を降りて昇降口へ向かう。昨日入学式だったのに、慎はもう迷いなく足を進めていってる。オレは付いて行ってるだけ。
前はオレが慎をあちこち連れてってたのになぁ。
慎が、うちのマンションの上の階に引越してきた日から。
*
小学4年の夏休みの終わり頃、慎の家族は引越してきた。
日曜日の夕方、宿題と戦ってたオレの家に3人は引越しの挨拶にやってきた。
「ちゃんと逆算して無理なく終わるように進めればよかったのに」
呆れ顔の母が、終わってないワークブックをペラっとめくって言った。
「分かってるけど、予定通りにいかなかったんだもん」
夏休みは後1週間ちょっとなのに宿題は半分も終わってない。
やばい
それは分かってる。でも…
一日中机に向かってて、正直もう限界って気分の時に、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「誰かしらー、あ、もしかして…」
母が玄関チャイムのモニターを見て「やっぱり」って言った。
「だれ? お母さん」
「お引越ししてきた方よ。今日朝から作業してたの。翠里くらいの男の子も来てるから、あんたもいらっしゃい」
母にそう言われて一緒に玄関に向かった。
もう机を離れられれば何でもよかった。
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