M   120

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「は?」 「あ?」 「え?」  思わず声が出た。  慎と絢一と3人で大田を見つめる。大田がその視線を受けてびくっとした。 「だ、だってそうじゃん。おれだけ高校からだし、おれだけ名字呼びだし。お前らそれこそ目線だけで語り合ったりすんじゃんっ」  大田がわたわたして視線を下げた。その背中から絢一がガバッと抱きついた。 「(あきら)! なにお前かわいーこと言ってんだよっ」  あ、大田ってアキラっていうのか。 「翠里。アキラはな、日の光って書いて『晃』。オッケー?」  慎が空中に指で書きながら教えてくれた。  なんか懐かしい 「うん、分かった。晃、ね」  晃は誰かが「晃」っていうたびにぴくっとしてそっちを見てた。 「咄嗟に大田って呼んだらごめんな? 晃。慣れるまでは勘弁して」  慎が晃の肩をパンパンってたたいて言う。 「あ、うん、それはお互い様、つーか…なぁ?」 「なぁ、じゃなくって『慎』だろ? 晃ぁ。つかおれも呼んで? 『絢一』って」  晃の背中から抱きついたまま、絢一がウザ絡みしてる。 「お前離せ…っ」 「絢一って呼んでよー」  あははって笑いながら絢一が大田から手を離した。 「気ぃ遣ってくれてありがとな、晃」  慎がそう言うと、晃は慎を見て「いや」って照れくさそうに笑った。 「すぐ言えなくてごめんね? 晃」  オレが謝ったら、晃は胸の前で両手を横に振りながら「全然全然っ」って言って、それがなんか妙に可愛かった。 「つーかさ、おれは好き同士が付き合うの、全然アリだと思うけど、それをうるさくっつーか、面白おかしく言うやつがいるのも解ってっからさ。なかなか誰にでも言えるわけじゃねぇってのも解るし…。でもなぁ」  晃が慎を見て、ちょっと眉を下げた。 「間宮が…慎が一緒にいてくれたら、ナンパの成功率高ぇだろうなぁっつーのはザンネンだ」 「ははっ、なんだそれ」  慎が笑った振動がオレに伝わってくる。 「あー、ダメダメ晃。慎とか翠里目当ての子は、おれたちの方は向いてくんねぇから。もう実証済みだから」  絢一が再び晃の肩に腕を回して、顔の前で手を振ってる。 「まじで?」 「マジで。ただ女の子を眺めたいだけならいいぞ。放っといても寄ってくるから」  絢一がイヒヒって笑う。 「お前、俺らを誘蛾灯みてぇに」 「「ユウガトウってなにー?」」  絢一と晃が同時に言って、あははって笑って、慎も笑いながら「もういい」って言ってて、オレも笑った。 「でも単純にさ、味方が増えんの嬉しい。晃が言った通り、誰にでも言えるわけじゃねぇしさ」  慎がしみじみと言って、オレも「うん」て頷いた。  絢一と晃も、ふんふんって感じで頷いてる。 「だよなー。まあこれからはさ、おれらの前では気ぃ遣わなくていいからさ」  絢一が笑って言う。 「そうそう。ノロケだって愚痴だって聞くし、ケンカしたら伝書鳩だってやってやるぜ?」  晃は鳥が飛ぶマネをして、手をパタパタさせてる。  その様子がまた、じわりと滲んでくる。  
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