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 ドアを開けると、モワッとした空気が入ってきた。 「あ、初めまして。上の階に引越してきました、間宮です」  うちのお父さんより背の高い男の人がそう言って頭を下げた。 「あの、これつまらない物ですが…」  お母さんと同じくらいの歳に見えるキレイな女の人が紙袋を差し出した。  たぶん中身はおかし。  その2人の後ろに隠れるように男の子が立ってる。  キリッとした眉毛の、オレと同じくらいの。  彼が視線を上げて目が合った。  ドキンと胸が鳴った。 「あ、この子、慎っていいます。4年生で、そこの小学校に転校することになりましたので…」 「4年生? オレと一緒だ!!」  やったっ!! 同い年!!  母がちょっとオレを睨んで、乱暴に頭を撫でた。 「うちの子も4年生です。翠里です。よろしくお願いします」  そう言いながらオレの頭をぐいーっと下げさせた。その手に反発してぐいっと頭を上げて慎を見た。 「学校!歩いて行ってみた?」  慎がびくっとしてオレを見た。 「…え、あ…まだ…」 「じゃあオレ案内する! ね?」  慎が切れ長の目を丸くしてるけど気にしない。  オレはさっさとサンダルを引っかけて、そして慎の腕を掴んだ。 「え?! 翠里、今から行く気?!」  お母さんのちょっと怒ってるみたいな声。 「善は急げ!なんでしょ? 行ってきまーす」  この前テレビで見たクイズ番組の答えの言葉を言ってみて、慎の腕を引いて走り出した。背後で「ごめんなさい、うちの子が」って言ってるお母さんの声が聞こえた。 「…あとで怒られんぞ? いいのかよ」  慎がボソッと言った。 「いいのいいの。いっつも怒られてるし。それにもう、ずーっと机の前だったからさー、って、あ、ごめん。もしかしてやだった?」  今更、慎の気持ちを全然確かめてなかったことに気付いて、エレベーターの前で立ち止まった。掴んでいた腕を離して、恐る恐る慎を振り返った。 「ううん」  慎がにこっと笑った。 「学校行く道、覚えなきゃだし。荷物の片付けとかあいさつとか飽きたしさ」  そう言いながら、慎がエレベーターの下降のボタンを押した。 「よかったぁ。オレはさ、宿題。夏休みの。終わんなくてさー」  あははって笑ったら、くすって笑われた。  2人でエレベーターに乗り込んで、お互いなんとなく相手を見た。  身長はおんなじくらい。ちょっと慎の方が高いかも。スポーツブランドのTシャツにハーフパンツ。足元はスニーカー。 「えっとさ、今度、教科書どこまで進んでるか、とか教えてもらえる?」  慎が遠慮がちにオレを見た。 「あ、うん、いいよ。オレ、つーかオレの友達もみんな宿題終わんなくて、遊びに行くの禁止になってっから、いつでもうち来て」 「そっか、分かった」  慎がおかしそうに笑いながら言った。 「あ、あとさ、うちのマンション4年はオレたちだけだから。そもそもあんま小学生いないんだ。校区のギリギリだからさー」  だから、同い年で同じ男子の慎が引越して来てくれて、すごく嬉しかった。 「へぇ、そうなんだ。俺4年でよかったー」 「え! まじで?!」  うれしー 「マジで。だって、いいやつ感にじみ出てるじゃん?」  慎がオレの方を見て笑いながら言った。鼻の頭の汗が、傾いてきた陽に光った。  照れ臭くて、でも嬉しくて、えへへって笑って汗を拭いながら慎を見返した。
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