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M 4
*
高校の最寄駅から電車に乗る頃には、雲行きはさらに怪しくなっていた。
妙に冷たい風が吹いていて「降るぞ降るぞ」って空が言ってる気がする。
「家までもつと思う?」
慎を見上げて訊くと「うーん」って顔してから、ぽんぽんとオレの背中を撫でた。
「ま、降っても鳴っても一緒にいてやるから心配すんな」
低く潜めた声でぼそっと言われて、ちょっとホッとした。
慎がいてよかった…
揺れる車内から暗い空を見ながら「来るなよ来るなよ」と念じる。
家の最寄駅に着く頃、窓ガラスに糸みたいな雨の跡が付き始めた。
電車の音と混ざってるけど、ゴロゴロいってる気がする。
電車を降りて改札に向けて階段を降りていると不穏な音が響いてきた。空から。
「ほら翠里。急ぐぞ」
改札を抜けた所で、慎がオレの肩をぐいっと抱いて速足で歩き始めた。
細かい雨粒がパラパラと降ってきて、真新しい制服の上を転がり落ちていく。
「わ…っ」
遠くで雷が光った。ついビクッとすると慎がオレの肩に回してる腕に力を込めた。
「大丈夫、まだ遠い」
「うん」
オレも慎の腰に腕を回してブレザーを掴んで速足で歩く。
本格的に降り出す前に、どうにかマンションのエントランスに飛び込んで、はぁはぁと息をついた。…ただし、オレだけ。慎の息は乱れていない。
「翠里、どうする? どっちの家?」
ハンカチでオレの頭を拭いてくれながら慎が訊いた。
「じゃ、着替えたら慎の…っひゃっ!」
強い光がピカッと光って身体がすくんだ。遅れてゴロゴロと雷鳴が重く響く。
「大丈夫大丈夫。もう建物の中だから、な?」
慎が両腕でぎゅうっと抱きしめてくれたから、その広い胸に顔を埋める。
「…やっぱこのまま慎ん家行く…」
「分かった。歩ける? 翠里」
よしよしって頭を撫でられて、こくりと頷いて応えた。
慎がオレを抱き寄せて、外からの光があんまり見えないようにしてくれる。
でもピカッと光るとびくっとしてしまう。
慎が大きな手でオレの耳を塞いでくれた。
慎のブレザーをぎゅうっと握ってエレベーターに乗って、ボタンを押す慎の長い指を見つめた。慎の家は4階だ。
エレベーターの扉が開くタイミングでまた稲妻が光って、慎に抱えられるようにしながら廊下を歩いた。
慎の家の前に着いたらもう歩かなくていいから、慎の胸に顔を伏せて抱きついた。慎は片腕でオレの頭や背中を撫でながら鍵を開けてる。ドアがガチャッと開く音がして、促されるままに中に入った。
思わずため息が漏れる。
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