M   5

1/1
前へ
/121ページ
次へ

M   5

「…怖かったな。大丈夫か? 翠里」 「…うん。ギリ、だいじょぶ…」  ドキドキしながら慎にしがみついて、どうにか息を整えた。  慎の手が優しく背中を撫で続けてくれてる。  やっぱ嫌いだ。雷なんて。  学校で鳴り始めたら最悪だ。怖がってるの、周りに気付かれたくないからどうにか耐えるけど、授業の内容なんか何にも頭に入ってこない。 「動ける? 翠里」  オレをぎゅうっと抱きしめてる慎に耳元で問われる。オレより早く声変わりした慎の低い声はすごく耳に心地いい。  うん、って頷いたら「じゃちょっと進むぞ」って言われて、慎にくっついたまま足を動かした。慎が靴を脱いでるからオレも脱いで、抱えられるように慎の部屋に進む。 「カーテン開いてっからな。怖いなら目ぇつぶってな」 「うん」  ドアを開けた慎の、今度は背中に回ってくっついた。慎がくすっと笑って窓辺に進み、遮光カーテンをきっちりと閉めていく。  そのカーテンの閉まる音をオレは慎の背中に額を付けて聞いていた。 「これで光は入ってこない。音は…ちょいマシなくらいか」 「…うちよりずっといいよ。うちのはこんなにいいカーテンじゃないもん」  慎の部屋のカーテンは遮光で防音だ。雷が鳴ってる時はここにいるのが一番いい。…慎もいるし。 「…あとどれぐらい鳴るの? 雷…」 「ん? ちょい待って。あー…、予報では30分ぐらい、かな?」  くっついてる慎の背中からも声が響く。 「なーがーいー…」 「たぶん予報よりは早く収まると思うけどな」  背中から抱きついてるオレの手に慎の大きな手が重なった。  またドドンと雷鳴が轟いて、更にぎゅうっと慎に抱きついた。 「…翠里、な、座ろっか。どう座る?」  慎がオレの手をぽんぽんと撫でながら訊いた。 「ひざ、のる」  空のゴロゴロは続いてる。間隔、短くなってきてる。 「オッケー」  そう言った慎が後ろに手を回してオレをトントンとたたいた。オレが一旦慎から離れたら、慎はベッドに腰掛けた。その膝に正面から乗り上げる。  ゴロゴロッ、ドシャーン!!と低い轟と空を引き裂くような音が同時に鳴って、慎の膝にまたがってしがみついた。  慎がオレの背中を抱きしめて指先でぽんぽんと優しくたたく。  「雷怖いな。早く通り過ぎるといいな」 「…うん…。もぉやだ…」  親にもこんなには甘えられない。だからカーテンも買い替えてって言えない。  慎だけだ。慎にだけは全部見られても大丈夫。  慎は…絶対笑わないから。それぐらい、って言わないから。怖いな、って言ってくれるから。  知り合ったばっかりの頃からずっとそう。  だからオレは慎にだけは、めいっぱい甘えられるんだ。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

754人が本棚に入れています
本棚に追加