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M 5
「…怖かったな。大丈夫か? 翠里」
「…うん。ギリ、だいじょぶ…」
ドキドキしながら慎にしがみついて、どうにか息を整えた。
慎の手が優しく背中を撫で続けてくれてる。
やっぱ嫌いだ。雷なんて。
学校で鳴り始めたら最悪だ。怖がってるの、周りに気付かれたくないからどうにか耐えるけど、授業の内容なんか何にも頭に入ってこない。
「動ける? 翠里」
オレをぎゅうっと抱きしめてる慎に耳元で問われる。オレより早く声変わりした慎の低い声はすごく耳に心地いい。
うん、って頷いたら「じゃちょっと進むぞ」って言われて、慎にくっついたまま足を動かした。慎が靴を脱いでるからオレも脱いで、抱えられるように慎の部屋に進む。
「カーテン開いてっからな。怖いなら目ぇつぶってな」
「うん」
ドアを開けた慎の、今度は背中に回ってくっついた。慎がくすっと笑って窓辺に進み、遮光カーテンをきっちりと閉めていく。
そのカーテンの閉まる音をオレは慎の背中に額を付けて聞いていた。
「これで光は入ってこない。音は…ちょいマシなくらいか」
「…うちよりずっといいよ。うちのはこんなにいいカーテンじゃないもん」
慎の部屋のカーテンは遮光で防音だ。雷が鳴ってる時はここにいるのが一番いい。…慎もいるし。
「…あとどれぐらい鳴るの? 雷…」
「ん? ちょい待って。あー…、予報では30分ぐらい、かな?」
くっついてる慎の背中からも声が響く。
「なーがーいー…」
「たぶん予報よりは早く収まると思うけどな」
背中から抱きついてるオレの手に慎の大きな手が重なった。
またドドンと雷鳴が轟いて、更にぎゅうっと慎に抱きついた。
「…翠里、な、座ろっか。どう座る?」
慎がオレの手をぽんぽんと撫でながら訊いた。
「ひざ、のる」
空のゴロゴロは続いてる。間隔、短くなってきてる。
「オッケー」
そう言った慎が後ろに手を回してオレをトントンとたたいた。オレが一旦慎から離れたら、慎はベッドに腰掛けた。その膝に正面から乗り上げる。
ゴロゴロッ、ドシャーン!!と低い轟と空を引き裂くような音が同時に鳴って、慎の膝にまたがってしがみついた。
慎がオレの背中を抱きしめて指先でぽんぽんと優しくたたく。
「雷怖いな。早く通り過ぎるといいな」
「…うん…。もぉやだ…」
親にもこんなには甘えられない。だからカーテンも買い替えてって言えない。
慎だけだ。慎にだけは全部見られても大丈夫。
慎は…絶対笑わないから。それぐらい、って言わないから。怖いな、って言ってくれるから。
知り合ったばっかりの頃からずっとそう。
だからオレは慎にだけは、めいっぱい甘えられるんだ。
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