S   53

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S   53

 翠里がまた俺をぎゅうっと抱きしめながら、じっと見上げてきた。 「あの…、オレも慎のこと、好き…だから…。だから…あの…、だいじょぶ、だから…」 「え…?」  翠里の頬がさらに赤く色付いて、俺を見つめる大きな瞳はキラキラと潤んでいる。小さな唇を舐めて、噛んで、そしてまた開く。 「…慎が…したいこと、とかあったら…して…?」    う わ…っ 「ちょ…っ、待…っって。やばいやばい、やばいって翠里…っ」  必死でかけてるブレーキぶっ壊れそう…っ 「慎…?」  きょとんとした顔、可愛すぎて… 「お前、自分が言った言葉の意味、解ってねぇだろ」  指の背で翠里の白桃みたいな頬を撫でた。 「…そんなこと、ない…、と思うけどなぁ…」  またちらっと俺を見上げる翠里が、いつもと少し違って見える。  落ち着けって自分に言い聞かせようとしてるのに、心臓は胸を破りそうなほど激しく打っている。  ドクドク ドクドク ドクドク 「あんま煽んないでくれよ、翠里。暴走するよ?俺」  頬を撫で下ろした先、薄く開いた唇に指で触れた。  翠里がぴくっと震えて、俺をじっと見上げてくる。 「翠里…」  親指で翠里の唇をなぞる。 「…なに…? 慎…」  掠れた声が妙に色っぽい。 「…キス…してもいい…?」  自分の声が聞こえ辛いほど動悸がすごくて、喉がカラカラで声が掠れた。  俺を見上げている翠里が、こくりと頷いた。  夢なんじゃねぇかな、実は  いつの間にかもう俺、眠ってんじゃねぇの?  僅かに震えてしまう手で翠里の顎を支える。  翠里がゆっくりと瞼を閉じていって、長いまつ毛は扇のように綺麗に広がっていた。  翠里の赤みを帯びた唇。  眠っている翠里の唇を、こっそり指で触れたのは全部で何回だろう。  いっそ口付けてしまいたいという欲望を、毎度どうにか抑え込んだ。  目を閉じた翠里にゆっくりと顔を寄せる。  ドキドキ ドキドキ ドキドキ  翠里の唇に、ごく軽く、触れてみた。  翠里がまたぴくりと震えた。  す…っげ、やらかい…っ  次は、ちゅってほんの少し吸ってみる。翠里は目を閉じたまま真っ赤に頬を染めていた。  か…っわいーなぁ…  三度目に、しっかりと唇を合わせた。  翠里の小さな唇がぎこちなく動く。その少し開いてきた唇に軽く舌で触れると、翠里はぴくりと身体を震わせて俺のTシャツをぎゅっと握った。  や…っべ、ちょっと…  やめらんねぇ…っ  唇を合わせる角度を変える隙に息を吸う。  舌を入れて翠里の歯列をなぞると、翠里が喉奥で小さく声を上げた。  一度唇を離して見つめ合う。  お互いの荒い呼吸音が部屋に響いて、身体の中では激しい心音が鳴り続けてる。 「…もっと…いい?」  ほんの少しだけ、煽ったのはお前だぞ、っていう気持ちが心の中にある。  翠里が潤んだ目で俺を見上げて、こくりとまた頷いて、そして目を閉じた。  濡れた赤い唇は少し開いている。  その唇をちゅっと吸うと、翠里も同じように俺の唇を吸う。小さな唇が柔らかく触れている。  翠里も俺のこと好きなんだ…  好きだったらいいのにって、ずっと思ってた。  ぜってぇ好きだろ、って思ったりもした。  確かめたくて、でも告白するのが怖かった。  万が一にも翠里を失いたくなかった。  
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