S   56

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S   56

 身体を起こそうとしたら、翠里にぐいと引き寄せられた。俺の首に腕を回してぎゅっと抱きしめてくる。 「あ、あの…、やなわけじゃなくて…っ。でも、でも、そこ触られたらへんな声でちゃうから…っ」  ぎゅうぎゅう抱きついてきながら、翠里が必死な声で訴えてくる。  なんだよそれ 可愛いなぁ 「翠里、翠里」  小さい頭をぽんぽんと撫でて呼びかけると、翠里が鼻をスンスンと啜って、少し腕の力を緩めた。額と額を合わせて、真っ赤な可愛い顔を覗き込んだら、翠里が半泣きの情けない表情になった。  めちゃくちゃ可愛いし 「それな、全然変じゃねぇから。声が出るのも、声そのものも全然変じゃないよ?」  赤い鼻の頭にちゅっとキスをする。翠里が眉間に皺を寄せて俺を見上げている。 「…ほんと…? へんじゃない…? オレ…」 「ほんと。めっちゃ可愛い。…もっと聞きたい…」  涙が滲んでいる目元にもキスをしたら、翠里の眉間のシワが取れてへにょっとした顔になった。  あー… ダメだな これは  可愛すぎる  翠里の額に、頬に、顔中にキスをして、可愛いことを言う唇を塞いだ。  細い腕を俺の首に絡ませた翠里が、一所懸命って感じでキスに応えてくれるのが可愛くて気持ちいい。  キスをしながら、翠里のパーカーをたくし上げていく。白い肌はうっすらとピンク色になっていた。 「ね、翠里。…脱がしても、いい?」 「え、え…あの…っ」  上から覗き込んだら、翠里は視線を泳がせて言い淀んだ。  嫌、とは言わないんだな  少しホッとしながら、また軽くキスをした。  翠里が俺から手を離して両手で顔を隠した。 「…く、暗くして…っ。あと、オレだけは…やだ…」  言うことも言い方も、顔隠すのも全部可愛い 「オッケー…」  暗くしたらますます途中でやめらんなくなりそうだけど…、まあいいか。  ベッドのヘッドボードに置いてあるリモコンで明かりを落として、先にTシャツを脱いだ。薄暗がりの中、翠里が目を見張ったのが分かった。 「どうした? 翠里」  翠里の両側に手を突いて、覆い被さりながら訊いた。 「や…あの…、カッコいいな…って…。し、知ってた、けど…っ」  また顔を手で隠しながら翠里が言った。 「はは、そっか。サンキュ」  その、顔を隠してる手の甲にキスをしたら、翠里がぴくっと身体を震わせた。    あ、翠里、指の間から俺のこと見てる。  かーわいいなぁ…  俺、今日何百回翠里のこと可愛いって思ったんだろ。  1秒1秒全部可愛い。  俺の翠里。  ゆっくりとパーカーを脱がしていくと、翠里は素直に腕を上げた。  手を添えて袖を脱がして、一度キスしてから頭をパーカーからすぽっと抜いたら、翠里は恥ずかしそうに自分の胸を抱いた。 「翠里はめちゃくちゃ可愛い。知ってたけど」  翠里のマネをしてそう言ったら、少し唇を歪めて俺を睨んだ。その可愛らしくちょっと突き出た下唇を唇で挟む。  怒ってたって可愛い  …あっ  翠里の細い腕が、おずおずと俺の背中に回されていった。  素肌を触られるとぞくぞくする。
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