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                 * 『明日、10時にうち、ってことで。またね』  って言った次の日の10時ぴったりに、慎はうちの玄関チャイムを鳴らした。  来た!来た!  爪先立ちで玄関まで走って行って、大急ぎでドアを開けた。 「おはよ」  慎がちょっと緊張した顔で言った。 「おはよっ。入って入ってー。オレしかいないし」 「そっか、共働きなんだよな」  ほっとしたように笑って、慎がうちに入ってきた。 「リビングに教科書出してあるからさ」 「ミサトん家って俺ん家と左右逆なんだなー」  きょろきょろ周りを見回しながら慎が言った。 「へー、そうなんだぁ。オレ自分家しか知んないや」 「今度うち来なよ。片付いたら」 「な」って微笑みかけられて嬉しくて、「うん」って大きく頷いた。  それから、栞を挟んでおいた教科書を慎に見せた。 「わ、ちゃんと印付けといてくれたの? サンキュー」 「ううん全然。ゆっくり見てってー。…オレ、宿題やるし…」  思わずため息をついて、終わってない宿題をまとめて入れたカゴを引き寄せた。 「ははっ。俺、宿題ないんだ。転校したから。それはラッキーだったかなー。延々と荷造りだったけど」  なんでもないことみたいに慎が言った。    でも、ほんとはどうなのかな。  リビングのソファ前のテーブルに並んで座って、オレの教科書をペラペラめくってる慎を、ちらっと横目に見た。 「へぇ。翠里ってこういう字なんだ」  教科書の裏の名前を見て慎が言った。 「うん。シンは? どんな字?」 「俺は、りっしんべんにまこと。あ、どっか書いていい?」  うん、て頷きながら、鉛筆と宿題一覧のプリントの裏を慎に渡すと、慎がそこに『間宮慎』と書いた。 「字、上手いね」 「そうかぁ?」  照れくさそうに笑った慎が、オレの前に置いてあるカゴの中身を見た。 「そのカゴの中に入ってる本、俺も読んだ」 「え? マジで? それさ、読書感想文用に借りたんだけど、まだ読めてなくて」 「そうなんだ。面白かったよ、それ。もしどうしても間に合わないなら、あらすじ教えてやるけど?」 「うわ、助かるー。やばかったらお願いするー。てゆっかすでにヤバいけど」  慎が神に見える… 「でもほんと面白いから、読めたら読んで」 「うん!」  そう言われると読みたくなった。ずっと後回しにしてたのに。  ワークブックを開いて、昨日解んなくて放り出した算数の問題を見返した。  とりあえず消そ… 「ん? 翠里、算数苦手?」 「え…、あ…うん…」  手元を覗き込まれてちょっと恥ずかしかった。 「あ、ほら途中まで合ってる。で、ここでほら、ちょこっと計算ミスしてる。そこ見直してみな?」 「うん」  慎に見守られて、なんかドキドキしながら昨日解けなかった問題をもう一度考えた。 「あ、できた…かな?」 「うん、オッケー。合ってる」  にっこり笑いかけられたのがすごく嬉しかった。 「次のもやってみな? 俺見てるし」 「うん!」    慎はオレが詰まるとヒントをくれて、なかなか出来なかった算数のワークブックが過去最高のスピードで進んだ。
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