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M 64
「あ、そうだ、翠里。昨夜タオル一枚借りたから」
慎がそう言いながらカーテンの方を指差した。
「濡らして使ったから、そのまんま洗濯物に入れんのどうかなって思って。水洗いはしてあるから…」
「え、あ…。もしかして、拭いてくれた…の?」
そういえば、ちゃんと服も着てる。
「ん? そりゃ、あのまんまってわけにはいかないじゃん」
ふっ、て笑った慎が、オレの額にキスしてベッドから立ち上がった。
帰っちゃう
まあ、またすぐ会うんだけど…でも
オレもベッドから立ち上がって、慎にぎゅうっと抱きついて、顔をすりすり擦り寄せた。
「ありがとね、慎。大好き」
「んーん。全然いいよ。翠里、なんか猫みてぇだな。可愛い」
慎が長い腕でオレを抱きしめる。
「好きだよ、翠里」
「えへへへへ、うれしー…」
ぎゅうって抱きしめ合うの、すっごく気持ちいい
「あーあ、バカップルだ」
慎がくすくす笑いながら言った。
「だねー」
オレも笑う。
名残惜しさいっぱいのまま腕をほどいて、玄関まで慎を見送った。一度振り返って手を振って、慎は外階段を昇っていった。
帰っちゃったなー…
「あら、おはよー、翠里」
「う、わっ、お、おはよーっ、お母さんっ」
後ろから声をかけられて、びくっとしてしまった。
「なにそんな驚いてんのよ。朝ごはん食べる?」
やばい! お母さんに怪しまれちゃう!
「いや、後ろから急に声かけられたらびっくりするって。あ、ごはん食べるよ」
普通にできてる? 大丈夫かな、オレ
「先に着替えるね」
そそくさと自室に入って、ふぅとため息をついた。
着替えなきゃ。慎と花火買いに行くんだ。
…あれ?
これは…、デート…って言っていいのかな?
…デート、デートだ! わーい!!
って何着てけばいいの?!
いや、でも今更どうしようもないし、いつも通りか。オレの私服なんか慎全部知ってるもんね。
でも何着たらいいか迷う
ドキドキしてる
結局ボーダーのカットソーにクロップド丈のチノパンにした。
「あら、翠里、出かけるの?」
オレの服を見て母が言った。
「あ、うん。慎と…」
平静を装って、トーストにブルーベリージャムを塗る。
「今日も一緒に? ほんと仲良しねぇ」
母が笑いながら何気なく言った言葉にドキッとした。
うん 仲良しだよ
「…花火、買いに行くんだ。他にもどっか行くかもだけど」
だって 恋人同士だもん
…って、誰にも言えないんだよね…
お母さん、オレと慎が付き合ってるって知ったら、どんな顔して何て言うんだろう。
「分かった。気を付けて行ってらっしゃい。あ、お天気いいからシーツとか洗っとくわね」
「え、あ、うんっ。じゃ、剥がして洗濯機に入れとくねっ」
ドドドッと強く心臓が脈打った。
「あらそう? じゃあそうして。助かるわー、自分でやってくれると」
昨夜あんなことしたベッドのシーツ、お母さんに替えてもらうとかありえない。
てゆーかやばいやばい! 顔熱くなってきてる…っ
向かい合って座ってる母にバレないうちに、大急ぎで朝ごはんを食べて部屋に戻って、ドキドキしながらシーツを剥がした。シーツをぎゅうっと抱きしめて、くん、と匂いを嗅いだ。
いつもより慎の匂いがする…気がする。
ちょっともったいないな、洗っちゃうの。
慎の匂い、大好きだから
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