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M 65
カバー類を全部剥がして洗濯機に放り込んで、出かける準備をしていたらスマホが鳴った。
慎だ!
ーーいつでも行けるよ。
わ、わ、オレあとちょっと
ーーーもちょっとまって
ーー慌てなくていいよ。待ってるから。
違うの、慎
待たせるからって慌ててるんじゃない
早く会いたい
もちろん、待たせていいって思ってるわけじゃないけど。
サイフの中を確認して、ハンカチと定期のICカードも放り込んだ。
昨日は2回も慎に手拭いてもらっちゃった。まだ慎のこと好きって気付いてなかったけど、すごく嬉しかった。
頭では解ってなかったけど、やっぱずっと慎のこと好きだったんだと思う。
最後にクローゼットの鏡で一応チェックして、慎にメッセージを送った。
ーーーできた
ーーOK。迎えに行く。
わーい!
「お母さん、行ってきまーす」
リビングに声をかけたら「あらもう行くのー?」って言いながら母が出てきた。オレが出かける時、家にいれば母はいつも玄関から見送ってくれる。
今までなんとも思ってなかったけど、今日はちょっと恥ずかしい。
スニーカーを履いて玄関ドアを開けたら、ちょうど慎が来たところだった。
うわ どうしよう…
すっごい格好いいっ
さっきはサラサラの洗いっぱなしだった髪が、ちゃんとセットされてる。
五分袖のゆったりしたオフホワイトのTシャツにシルバーのネックレス。黒の、やっぱりゆったりしたシルエットのパンツ。
「やだー、慎くん今日もオシャレー。カッコいい!」
母がキャッてはしゃいだ感じで言ったら、慎はちょっと照れた顔をした。
「あ、おはようございます。ありがとうございます」
「あ、そうね、おはようっ。今日も翠里をよろしくね」
母がオレの両肩をポンっと叩いて言った。慎がちらっとオレを見る。
「はい。任せてください」
慎は微笑んで母にそう言った。
「あら、頼もしい」
ふふって笑った母に「行ってきます」って言って背を向けて、並んでエレベーターに向かった。
背後でパタンとドアの閉まる音が聞こえたら、慎がオレの肩に腕を回した。オレも慎の腰に腕を回す。
誰もいないエレベーターホールでお互いをぎゅっと抱きしめた。
「どこ行こっか、翠里」
肩を抱いた手で、慎がオレの顎を撫でながら訊く。
顎触られるとキスしたくなっちゃう
「えっと…、あのおっきいディスカウントのお店」
「あー、あそこか。なら電車だな」
エレベーターが来てドアが開いた。中は空っぽ。誰もいない。
ドアが閉まったら2人っきりだ。…防犯カメラあるけど。
「カメラなかったらキスできるのにな」
慎の指がオレの唇をなぞる。その指にキスをして慎を見上げた。
「また可愛いことすんね、翠里」
慎の指がオレの唇をふにっと挟んだ。
エレベーターがスピードを落としていく。3階から1階なんてあっという間だ。
ドアが開く。
慎がオレの肩を抱いたまま歩き始めた。
「…いいの?」
慎を見上げて訊いたら、ふふって笑われた。
「今までもこうやって歩いてたよ? 雷ならもっとぎゅっとして。忘れちゃった?」
「あ、そっか。そうだよね。なんか…」
「意識してる?」
ぐっと抱き寄せられてドキッとした。
うん、て頷いたらまた慎が笑う。
やっぱり格好いい
「ねぇ、慎」
「ん?」
ちょっと恥ずかしい。でも訊きたい。
「これって…デート?」
慎を上目に見ながら訊いてみた。
慎は少し目を見張って、そして眩しい笑顔で頷いた。
「もちろん」
一駅分電車に乗って、お隣の大きい駅で降りた。普段から人の多い駅だけど、ゴールデンウィークだからすごい。
「はぐれるなよ、翠里」
そう言った慎がオレの手を握った。
「うんっ」
おっきい手をぎゅって握り返す。
「誰かに会っちゃったらどうする?」
慎の隣にぴったりくっついて見上げて訊いた。
「翠里が迷子になるからって言う」
にやっと笑った慎がオレを見下ろした。
「なんか…納得してもらえそうでフクザツ…」
まあいいか 手繋げるし
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